PHOTO ESSAY -69-  花が美しい理由




アブラナの花の可視光写真(左)と紫外線写真(右)。花の中心は紫外線を吸収し、人間には見えない円形の模様がある。

文/写真・大村 尚
(OMURA, Hisashi)
総合科学部
自然環境科学講座助手
花を介した動植物の相互作用
Animal-Plant Interactions through flowers


アブラナの花から蜜を集めるミツバチ
 世界に一つだけの花〜♪流行歌にも例えられるように、自然界は実に個性的な花々であふれています。現在、陸上にある植物の多くは、動物に花粉を運んでもらうことで繁殖を行います。よって、彼らが子孫を残すためには、まず動物(送粉者)を花に惹き付けなければなりません。多くの動物は視覚や嗅覚を使って訪れる花を決めるため、植物は、色や形、香りに特徴のある魅力的な花をつけることで、送粉者の呼び込み競争をしていると考えられています。一方、花を訪れる動物の多くは植物から提供される蜜や花粉を餌としています。この資源は量的に少ないため、動物は常に餌をめぐって同種あるいは異種の間で競争しなければなりません。このように、花の美しさの背景には、動植物の熾烈な生存競争が隠されているのです。この競争は動植物に種分化を引き起こし、現在の多様性を創り出したと考えられています。
 花の好みは十人十色〜♪動物が好んで訪れる花は、動物の種類によって少しずつ異なることが知られています。この原因の一つは、彼らの花の色や香りに対する好み─視覚や嗅覚を通じて花を認知する能力─に違いがあるためです。例えば、春に咲くアブラナの花は私たちの目には全面鮮やかな黄色に映ります。しかし、花を紫外線写真で撮影すると、花弁の基部と末端での反射率の違いによって円形の模様が映し出されます。多くの昆虫は紫外線を見ることができるため、私たちには見えないこの模様を見ているのです。また、アブラナの強い花の香りはモンシロチョウに食物を連想させ、採餌行動を引き起こす効果があります。私たちの研究室では、動物を惹き付ける花の特徴を明らかにし、更に動物の感覚機能や行動様式を調べていくことで、花を介した動植物の相互作用や彼らの進化の歴史を明らかにできるのではないかと期待しています。
研究室ホームページ:http://home.hiroshima-u.ac.jp/honce/index.html

アブラナの花から蜜を吸うモンシロチョウ

アブラナの花の香りに含まれる成分で匂い付けした造花を訪れ、口吻を伸ばして餌を探すモンシロチョウ

黒瀬川の土手に咲くアブラナ〜黄色の絨毯



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