文・金子 真
( KANEKO, Makoto )
拠点リーダー
大学院工学研究科
サイバネティクス講座教授



本プログラムの概要
超高速ビジョンと超高速アクチュエータをシーズ技術とし、それらを発展的に組み合わせて構造ダイナミクス、バイオダイナミクスに新しいメスを入れようとしています。
 ヒトの目が一秒間に処理できる画像枚数は高々三十枚程度だと言われています。また一秒間に発生できる最大加速度は投球動作でみて高々五G(Gは重力加速度)程度です。これに対して、大学院工学研究科複雑システム工学専攻では、ヒトの目より約三十倍速い世界最速の超高速ビジョン技術やヒトの動作より二十倍以上すばやい動きを実現する超速アクチュエータを使った百Gキャプチャリングロボット(世界最高加速度を実現)の開発に成功しています。
 本COEプログラムでは、人間の能力をはるかに超えたこれら二つの超速ハイパーヒューマン技術をシーズ技術とし、いままでのセンサでは捕らえることができなかった環境のダイナミック現象を捕らえようとしています。例えば、時速300kmののぞみ号がトンネルに入った瞬間強烈な風圧がトンネル入り口部で発生し、これが壁面亀裂の発生要因になることが知られています。もし一秒間に十万枚の画像が処理できるビジョンセンサが完成すれば、画像間にのぞみ号が進む距離はわずか〇・八mmとなります。のぞみ号にこのビジョンセンサを装着すれば亀裂部で発生した微小振動を捕らえることができるようになります。このようにビジョンセンサの高速化を進めていくと、いままで想像すらできなかったダイナミック現象を捕らえることができるようになります。新幹線の場合はのぞみ号自身がアクチュエータの役目も演じていますが、高速ビジョンセンサと高速アクチュエータを組み合わせれば、環境にいろいろな力を人工的に発生させることができるので、引き出せるダイナミック情報に幅をもたせることができます。本プログラムでは、生物系・医学系の研究グループが超速センシングシステムを用いて、特にバイオダイナミクスの分野で新しい発見、ひいては新しい学術分野を切り開いていこうとしています。



広大フォーラム2004年10月号 目次に戻る