平成十六年度予算配分について   文・前川 功一
( MAEKAWA, Koichi )
理事・副学長(財務担当)

予算配分の基本方針
 今年四月にわが大学は法人化され、国立大学法人広島大学として新たに生まれ変わりました。この制度上の移行に伴い予算の概念と配分方針が根本的に変わりました。その骨子は「財務・会計制度について」(平成十五年十月)及び「国立大学法人広島大学設立構想」(平成十六年三月)(以下「設立構想」という)に述べられていますが、ここでもう一度それを復習しておきましょう。
 昨年度までは、授業料、入学検定料などは国庫に納められていましたが、法人化後は、それらは直接、大学の収入となります。この収入と国から交付される運営費交付金との合計が大学の総収入となります。その合計は十六年度の場合、約五百七十四億円となる見込みです。さらに科学研究費補助金、二十一世紀COEプログラム補助金などを加算すると、十六年度の広島大学の財政規模は約六百億円となります。次頁の二つの円グラフは広島大学の予算を五百七十四億円余として、その内訳を示しています。予算配分の基本方針は、「設立構想」のなかで「(一)人件費及び管理的経費は、全学的に予算編成する、(二)研究活動の最低保障を行うため、教員の基盤研究費を、「実験」及び「非実験」それぞれの単価に応じて配分する(今年度の単価は「実験」系六十万円、「非実験」系三十万円)、(三)研究計画に応じて重点的に予算投入を行い、研究の活性化を図るために研究特別経費を配分する、(四)教育経費は、原資が授業料であることを念頭に、研究経費との分離を行い、積算による基礎配分(基盤教育費)と要求等による教育特別経費に分けて配分する」とされています。
 法人化初年度の予算配分は、今後の財政状況を考慮し、基盤的な経費について、部局間に共通な単価に基づいて配分するという意味で平準化を図ることを中心課題として検討されたものです。

前年度との増減は何処へ行ったか?
 文部科学省は早い段階で、十六年度に関しては国立大学法人の予算は昨年度並みを保証するということを表明していました。確かに広島大学の場合もトータルで見れば昨年度並みの予算規模ですが、実際に部局レベルあるいは教員レベルで捉えると増減幅は大きなばらつきがあります。基盤的経費は今回の配分見直しで平準化されたわけであり、逆に言えば、これまでの配分が部局間等において大きな格差があったということは否定できません。大学全体の予算規模はほぼ昨年と同額ですが、これまでは必要のなかった費用(保険料、租税公課等)や組織見直しによって新たに必要となった費用等を含めての「同額」であり、大学全体として、昨年に比べて厳しい状況になっています。
 減額分は何処に消えたのか?その原因はどこにあるのか?多くの皆様からこのような質問を受けました。一般論としては、「予算配分の基本方針が変わったので昨年度との単純比較は出来ない」ということなのですが、それでは説明不足ですので、少し詳しく説明します。
 第一の原因として、定められた単価によって基盤教育費と基盤研究費が配分されたことが挙げられます。
 第二の原因として、これまではなかった予備費を計上した点が挙げられます。予備費を計上した理由としては、収入予算は見込みでの計上であり、例えば授業料について、休退学者が増えると授業料収入が減り、使える予算は減ることになります。これまでは、支出予算は国の歳出予算として収入とは関係なく別に組まれていたため、収入が減ったとしても、それは国全体の歳入欠陥の問題であり、その年度に大学が使える予算には影響はありませんでした。しかしながら今後は収入が見込みを下回った場合は、大学の中で調整していく必要があります。また、当初予算配分時においては不確定な要素に備える必要がありました。今年度においては、消費税や残業手当の扱い等が不明であったこと、さらに、非常事態に対する緊急支出(例えば台風による災害復旧費等)に備える必要があったことなどが主な不確定要因に挙げられます。今年度は初めての経験ということもあって、安全を期してこれらの不確定部分を大きめに見積もりました。
 第三に、新たな費用(たとえば各種保険料、振込手数料、役員経費等)が必要となった点等が挙げられます。

ソフトランディング
 前述のとおり予算配分方針変更により大きく予算が変動した部局等においては、大幅な削減となったことは事実です。平準化が目的としても、その結果、教育・研究に支障をきたすような事があってはなりません。そこで各部局を訪問し、部局長の先生方から直接に今年度の予算配分に関するご意見とご要望をお聴きしました。その過程で、例えば昨年度すでに今年度購入分の学術雑誌を発注しているのに、今年度配分された予算ではそれが払えないなど、多くの部局間で共通するいくつかの問題点が指摘されました。牟田学長もこれらの点を非常に憂慮され、今年度に限り学長裁量経費のかなりの部分をソフトランディングのための補正配分に使用する決断を下されました。補正の結果はすでに部局にはお知らせしましたが、少しでもソフトランディング効果があがったことを期待しています。

今後の財政運営
 大学の使命は、質の高い教育を提供し、優れた研究業績を生み出し、社会に貢献することです。これらの目標を実現させるために予算が使われることが大原則です。将来、大学の財政状況はさらに厳しくなると予想されますが、来年度の予算配分の策定に当たっては、今年度の経験を踏まえながら、また各部局との十分な意見交換を行いながら、この大原則を貫くよう最大限の努力をしたいと思います。またそのためには、大学全体として、いっそうの外部資金の獲得に努める必要があります。
 アテネオリンピックにおける日本人選手のメダル獲得は目覚ましいものでした。その勝因の一つとして、JOCによる五輪メダル倍増計画「ゴールドメダルプラン」が挙げられています。そこでは従来のように強化資金を各協会に均等に配分するのではなく実力主義に基づく徹底した「選択と集中」がなされたとのことです。オリンピックのテレビ中継を見ながら、広島大学も、「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」という金メダルを目指して、今後の予算配分に当たって最低限の基盤経費を保証しつつも、ゴールドメダルプランのような発想を取り入れる必要を感じています。



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