文・高橋 顕志
( TAKAHASHI, Kenji )
大学院教育学研究科
国語文化教育学講座教授

 2003年度、教育学部の専門的教育科目として開講された「国語文化フィールドリサーチA(言語分野)」で、「広島大学キャンパスことば辞典―2003年・教育学部周辺―」を作成しました。
 58名の授業参加学生が項目を出し合い、意味を記述し、アクセントを確認し、全員で調査しながら書き上げました。学部・大学院・教室・講座・類・コースという大学の組織名から、講義名、オリエンテーションキャンプやサークル関連の用語、構内の地名・スポット関連用語など多くの語が集まり、それらのすべては、上記URLで公開されています。
 受講生が教育学部生に限られており、広島大学のキャンパスことばをすべて網羅しているわけではありません。また、わずか四ヶ月間の授業ですから、記述も充分ではありません。しかしながら、2003年の春から夏にかけての時期、教育学部生の周辺にこのようなことばが存在していたことを記録しておくことには、大きな意味があることと思います。
 以下、2003年版の作成に関わった学生の一人からのコメントです。

日本語教育系コース三年  藤江 明哲

 この「広島大学キャンパスことば辞典」の作成という試みは、実はものすごい試みであったと今になって改めて思います。広島大学での全学部における調査。数回にわたって行われた作成者全員による内容の見直し。さらに文章のみならず、デジカメやボイスレコーダーによってそれらを詳細に記録しておこうという試み。授業の行われたセメスター中には完成しなかったけれども、半年に満たない短期間でここまで仕上がったのは大成功と言っても過言ではありません。
 私は、全データの微調整、意味の再確認という重要な仕事に携わることが出来ました。このことは自身にとっても非常に大きな収穫でした。今回の作業がなければ知り得なかったであろう多くの言葉を知ることが出来ました。その由来、意味には驚くべき学生の発想があり、そのセンスに唸らせられることも度々でした。また、この調査に関わった作成者の熱意にも驚かされました。一人ひとりが熱心に調査、考察を重ね、推敲した文章を渡されたときには、私は自らに課せられた使命の重さを改めて実感せざるを得ませんでした。

 本年度、この作業は授業と分離し、別の組織(ことばの変異種研究会)を立ち上げ、そこで2004年版が作成されています。以下、そのメンバーからのコメントです。

国語文化系コース二年  竜田 徹

 研究会では、まず、先輩方が作られた2003年版を読みながら、みんなで意見を出し合いました。思わずうなずきながら、ときに笑みを浮かべながら、その使われ方に納得することば。もうそんなことばは使わないよ、と感じて腑に落ちないことば。その話し合いは、自分たちの今の大学生活をみんなで振り返る営みでした。
 これを踏まえ、現在は2004年版を作成しています。今年度の私たちの大学生活を、「キャンパスことば辞典」という形で残します。2003年版で築かれた「生き生きとした大学生活の記述」を大切にしながら、語句の配列を改める、写真を増やす、地名と一緒に地図を載せる、などして、「読んでいて楽しい辞典」を目指します。もちろん、今年度新たに誕生したことばを載せたり、使われないことばを削ったりする作業も行います。この辞典がみなさんの手に、あるいは来年度の新入生の手に取られるのを、今から楽しみにしています。
 残念なのは、まだ研究会の人数が少ないということです。教育学部の学生のみということで、他学部のことばを集めづらいのです。学部・コースは問いません。興味のある方は、ぜひ私たちを訪ねて下さい。その際にはぜひ、みなさんが知っている広島大学、みなさんが使っている「キャンパスことば」を連れてきて下さい。

 最後に責任者としてひとこと。
 2003年版の作成・アンケート調査に関わった学生諸君、ウェブ上で意見を下さった多くの方々に、この場を借りて篤く御礼を申し上げたいと思います。引き続き、2004年版への協力もよろしくお願いします。
 そして、全学の方々。学生たちが自分たちのアイデンティティを確かめ合おうとしているこの作業を、あたたかく見守っていただければと存じます。


「広島大学キャンパスことば辞典−2003年・教育学部周辺−」のHPの一部


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