『視覚の認知神経科学』

ペンシルバニア大学
M. J. ファーラー 著
大学院教育学研究科
利島 保 監訳
協同出版/2003年/2,940円
 本書は、ペンシルバニア大学認知神経科学センター長ファーラー教授が、二〇〇〇年に出版した同名英書の翻訳です。著者は、脳損傷者の認知障害研究で一九九二年アメリカ心理学会若手優秀研究者賞を受賞、相貌失認の認知神経学的過程を描いた書でマッカーサー賞を受賞するなど、国際的評価の高い女性神経心理学者です。本書は、認知脳科学に興味を持つ入門者のガイドブックということを念頭に置き、彼女のグループが行った色、運動、顔、文字等の認知心理学研究と脳イメージング研究を紹介し、認知障害者や健常者の視覚認知と脳の情報処理過程との関係を解説しています。特に、本書の最後の二つの章では、視覚イメージの研究から脳の計算モデルを創るこれからの認知神経科学と、科学的心理学がこれまでタブーとしてきた意識研究の可能性を、著者の夢として語っています。この夢の実現に駆り立てられた若手研究者達が、監訳者とともに本書の翻訳に携わってくれました。



『ベクトル解析入門』

大学院理学研究科
小林  亮
早稲田大学
高橋 大輔 著
東京大学出版会/2003年/2,940円
 学生の皆さんにとってベクトル解析が必要になるのは、電磁気学を勉強し始めたときなのではないでしょうか。そこでは、発散だの回転だの、はたまた線積分だの面積分だの、見たこともないような数式が縦横に駆使されています。これらはすべて、ベクトル解析を知らないと何のことだかわからないものばかりです。
 電磁気学は力学と並んで物理学の基礎をなす分野ですので、学生さんはかなり早い段階でこの科目を習うハメになるわけですが、その時点でベクトル解析ならまかせてくださいと言える人はまずいないでしょう。このような事情で、電磁気学は「習う方にはわかりにくく、教える方は教えづらい」科目ということになりがちです。本書はそのような「迷える学生(先生)たち」を救うべく企画されたものです。この本ではできる限り直感的イメージをつかめるよう、主に流体のイメージを使って説明が展開されています。ベクトル解析を初めて勉強する方、電磁気学でお困りの方、ぜひご一読を。



『絵とき 再生医学入門
 
―幹細胞の基礎知識から再生医療の実際までイッキにわかる!』

東京医科歯科大学難治疾患研究所
朝比奈欣治
広島県産業科学技術研究所
立野 知世
大学院理学研究科
吉里 勝利 著
羊土社/2004年/3,465円
 二年前に出版社から、幹細胞に関する本の執筆を依頼されました。この出版社から、以前、「再生―甦るしくみ―」を刊行していましたので、快諾しました。再生医療は国の重点研究分野の一つですし、新聞も再生医療関係の記事を頻繁に報道しています。二十一世紀医療の花形として社会の関心が先行しており、学問的体系化が遅れています。幹細胞は、組織再生を司る主役の細胞で、再生医療でも中心的役割を担っています。私達の体が成人後も若い性質を保持できるのは幹細胞の働きによるのです。文字離れ世代もこの魅力ある細胞を面白く理解できるようにとの要請があり、「絵とき」になりました。この本を読んだ人から出版社のメール欄に「絵ときだから大学教養程度と思って読んだが、専門書並のレベルであった」と寄せ書きがあったそうです。h先端的専門知識を分かりやすくiは達成できたようです。共著者の朝比奈君は広島大学で学位を取った若手研究者です。立野さんは再生研究を私と一緒に展開している女性研究者です。



『満州事変と中国政策』

総合科学部
小池 聖一 著
吉川弘文館/2003年/10,500円
 1931年9月18日に勃発した満州事変は歴史の大きな転回点とされていますが、それ自体、「歴史の後知恵」なのかもしれません。また、その評価は、短期間で「満州国」まで成立させたことから、「満州」(中国東北地方)現地での日中間の対立(特に経済)が限界まできていたからだ、と説明されてきました。しかし、これでは、当時の日中関係全体を明らかにできず、満州事変後に国際関係が安定し、日中関係も小康状態であったことも説明できません。そこで、本書では、日本の対中国経済政策を中心に、特に重光葵駐中国公使に焦点をあわせ、多角的に分析することで、満州事変が「必然」ではなく回避可能であったこと、日中間に「提携」関係が存在していたこと等を通じて、満州事変が「特異点」であったことを実証したものです。是非、ご一読いただければ幸いです。


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