発明・特許紹介

燃料電池用
高容量リチウム系水素貯蔵材料の開発
文・藤井 博信
 (FUJII, Hironobu)
自然科学研究支援開発センター
物質機能研究開発部教授

 水素は再生可能なクリーンエネルギーとして注目され、自動車用、家電用や家庭(オフィスビル)用燃料電池への応用が期待されています。中でも、水素を安全、かつ大量に貯蔵する技術の開発は、極めて重要な解決すべき課題であり、現在、世界各国で研究開発が行われています。水素貯蔵技術には、「高圧水素貯蔵法」、「液体水素貯蔵法」及び「媒体水素貯蔵法」が検討されていますが、それぞれ、一長一短があり、将来どのような貯蔵法が採用されるか予断を許さない状況です。現時点では、三百五十気圧までの高圧水素貯蔵法が利用されていますが、近い将来、高容量の水素貯蔵媒体が発見されれば、利便性・安全性の点から、高圧貯蔵法に取って代わることは間違いありません。
 私達は、昨年暮『Nature』に発表された論文にヒントを得て、リチウムアミド(LiNH2)と水素化リチウム(LiH)に、触媒として少量の塩化チタン(TiCl3)を加え、水素ガス雰囲気中で機械的ミリング(攪拌)処理することにより、新規なナノ複合化リチウムイミド前駆体(TiCl3ドープLi2NH)を作成することに成功しました(図参照)。この前駆体は、約六質量%(百グラムの媒体中に六グラムの水素を貯蔵)の水素を、百五十〜二百℃の温度で速やかに吸蔵放出する材料です。水素吸蔵放出による繰り返し特性も優れており、将来の水素貯蔵材料として最も有望な候補の一つとして、世界中から注目されています。現在、NEDO「水素安全利用等基盤技術開発」プロジェクト研究の中で、三菱重工、太平洋セメント、産総研とともに、実用材料としての耐久性試験、サイクル寿命などの改良研究に着手しています。


リチウムアミド(LiNH2)と水素化リチウム(LiH)に少量の触媒TiCl3を加え,ミリング処理して得たリチウムイミド前駆体(TiCl3ドープLi2NH)

 発明の名称:水素貯蔵材料及びその製造方法
 発 明 者:藤井博信、市川貴之、礒部繁人、花田信子
 出 願 人:広島大学 牟田泰三
 特許願2003-291672 他数件


広大フォーラム2004年2月号 目次に戻る