PHOTO ESSAY -73-  ヒトと馬に特徴的な皮膚疾患




図1 5歳女児が蚊に刺された翌日に生じた皮膚の変化

図2 5歳女児の首の後ろの部分に咬着して吸血中のマダニ(ヤマトフトゲチマダニ)の成虫


図3 4歳女児に生じた慢性蕁麻疹。毎日のように身体のあちこちが痒くなり、気がつくとあたかも蚊に刺されたかのような皮膚の膨らみと赤みが出現しています。しかしそれも数時間後には跡形なく消え、さらに予め薬を飲んでいれば、ほとんど症状がでることはありません。
汗かきとじんましん
Sweating and urticaria
文/写真・秀 道広

( HIDE, Michihiro )
大学院医歯薬学総合研究科
探索医科学講座教授
夏の夜、プーンと音を立てて枕元を飛び回る蚊は嫌なものです。しかし蚊は蜂などと違い、ほとんどヒトに気づかれることなく皮膚にとまり、完璧といえるほど痛みなく毛細血管にまで管を差し込んで吸血します。その技術たるやどんなハイテク人工針も足下にも及びません。困るのはその後の皮膚の痒みと赤い膨らみです。ヒトの血を吸うのは蚊だけではありません。図2に示すのは、ヒト皮膚表面で吸血中のヤマトフトゲチマダニです。このダニは体長約1cmもある大型の昆虫で、皮膚にのめり込むようにして咬着し、何日かかけて吸血します。写真では既に血を吸って丸々と膨れていますが、当のこの子は全く虫の存在を自覚していませんでした。しかし血液の損失もさることながらそこから病原体が入り込む可能性もあり、ヒトは是非ともその侵入は防がねばなりません。問題はその方法ですが、なにしろ彼らはヒトの皮膚知覚神経網をくぐり抜けて侵入してくるわけですから、もはや神経は頼りにできません。そこで血管の周りに地雷の様に皮膚マスト細胞(図4)を配備し、侵入のあった場所をピンポイントに膨らませ、吸血後の事後処理を含めた組織防衛を図ったものと思われます。蕁麻疹は、あたかも蚊に刺されたような皮膚の膨らみが起こる病気(図3)で、皮膚マスト細胞が何らかの刺激により活性化されることで起こります。多くの蕁麻疹は明らかな外部刺激なく起こり、原因不明とされていますが、蚊やダニなどの吸血性小生物に対する本来の生体防御機構がどこかで暴走した結果と考えると納得できる気がします。ところで皮膚のマスト細胞は、哺乳動物ならいずれも備わっているのですが、なぜかブタやネズミには蕁麻疹は見られません。ところがヒトと同様汗をかく動物である馬は、やはり蕁麻疹を起こすのです。ヒトの体の発汗と虫さされ対応機構はどこで繋がっているでしょうか?機会があれば馬を育てる人たちと共同でこの問題の答えを見つけたいと思っています。

図4 ヒト皮膚マスト細胞の電子顕微鏡写真(富山医科薬科大学豊田雅彦博士ご提供)。紡錘形の細胞の中に鰹節のような形の細胞核があり、細胞質には多数の顆粒があります。一部白く抜けたところは顆粒が細胞外に放出されたこと(脱顆粒)を示しています。

広大フォーラム2004年2月号 目次に戻る