(101)


  ザンビア
国際協力研究科―国際協力機構 
連携特別プログラムについて
文・池田 秀雄

(IKEDA, Hideo )
大学院国際協力研究科
開発基礎教育講座教授
文・田畑 佳則

(TABATA, Yoshinori )
大学院国際協力研究科
教育開発講座教授

 国際協力研究科(IDEC:アイデック)では、国際開発協力の最前線で通用する高度な理論と実務能力を兼ね備えた人材を養成する目的で、博士課程前期における特別プログラムを設けて学生をアフリカのザンビアに派遣し、海外実地研修・研究を行っています。まもなく最初に派遣した第一期生が帰国してきます。

プログラム開始の経緯
校舎の壁と地図。手前の少年の頭頂部付近
(ピンク)がザンビア
理科の授業
 国際協力機構(旧国際協力事業団:JICA)は、今日まで約二万五千人の日本人青年を青年海外協力隊として開発途上国に派遣し、開発途上国の国づくり、人づくりに協力して来ました。教育分野では理数科教師派遣の要請と実績が多く、派遣期間は二ヶ年です。この事業の歴史は古く、帰国後さらに継続して国際協力分野で活躍する多くの人材を輩出してきました。
 IDECでは、先進諸国の大学院における実地研修取り組みを参考にして、IDECとJICAの連携事業として本教育プログラムを開始しました。

プログラムの概要
 博士課程前期一年の前期にIDECにおいて専門教育を集中的に行い、その間にJICAの青年海外協力隊に応募します。合格すれば、二年間ザンビアに通常の協力隊員と同じ待遇で派遣されます。現地では第八・九学年(中学校レベル)の理科または数学教員として教壇に立つとともに、教員研修センターにおいて教員研修実務を支援します。毎年一回(八月)、現地に出向いたIDEC教員から集中講義を受ける他、電子メール等を利用して定期的に活動報告を行い、研究指導を受けます。任務終了後、三年次後期に帰国し、半年または一年間かけて修士論文をまとめます。

ザンビアの国情と教育
 アフリカの国々の多くは、一九六○年代に植民地支配から脱して独立し、一九八○年代までは徐々に発展しつつありました。ところが一九九○年代の冷戦構造崩壊以後は、経済が崩壊したり政情が不安定となりました。ザンビアでもクーデター未遂、不正・汚職疑惑などが起こり、最近になってやっと政局が安定して来ました。銅・コバルトの地下資源に恵まれてはいますが、国際的な銅価格の低迷によって外資系銅産業は衰退し、経済は重債務貧困国(極めて貧困で、外国からの債務を返済するために、より以上の債務が増える状態の国)となっています。少数の人は富んではいるものの、大多数の人々はたいへん貧困です。
 ザンビアでは、この様な貧困からの脱出を目指し、基礎教育を重視して教育改革を行っています。教育制度は、九年制の初中等学校を新たに設置して完全無償化を図りつつあります。しかし、これと同時に旧制度の七年制初等学校も併存しながら移行中で、外から見ると、一層の混乱をもたらしているとも考えられます。従来の七年制初等学校の上に、新たに接続された第八・九学年の部分が最も問題が大きく、教育現場に対する直接支援や現職教員の再研修が急がれます。

現地における活動
 現在、ザンビアには青年海外協力隊理数科教師二十八名が派遣され、そのうち六名が当連携プログラムからの派遣です。彼らは、新たに設けられた九年制初中等学校に派遣され、第八・九学年の理科や数学を担当しています。現地の厳しい状況に適応しながら苦労しており、教える順序の変更、教材開発、簡易実験開発、基礎計算力の向上、など各自の課題意識を持って活発に活動しています。
 それと同時に、教員研修センターにおいて教員研修実務を支援しています。赴任校と研修センターが遠い場合もあります。また、どちらに重点を置くべきか苦労しています。しかしながら、研修センターは各学校を巡回指導する業務も行い、実態調査を行う上で重要です。各学校において理科実験がどの様に行われているかなどの調査や、具体的な教師に対する実験指導も開始しています。
 IDEC教員による現地指導も始めました。集中講義は、他の一般隊員にも開放して行い、さらに、現地研究の進捗状況や、今後の研究に関する個別指導を行います。

成果と今後の課題
 教員研修センターへのアクセスを考え、都市に近い場所に派遣するため、一般隊員に比較すると生活環境は概ね良好です。しかし治安は悪化し、隊員が盗難に遭ったりもしています。ひたすら無事に帰国してくれる事を祈っています。
 派遣直後は生活環境に順応するのが忙しかった様ですが、徐々に調査や観察の視点が定まってきて、特に教育実践面で実績をあげつつあります。一方、教員研修センターにおける活動に関しては、十分な時間も確保出来ていないようです。教員研修という任務には高度な知識と経験が必要で、計画段階でやや無理があったのかも知れません。
 この様な現地におけるフィールドワークを通して、各学生に高度な実践力を身に付けさせるとともに、表面に表れる多くの問題点についてその原因を実証的に分析する研究手法の確立が急務です。そのためには、教員自身が先頭に立って現場で汗を流さなければならないと考えています。

  PROFILE PROFILE
池田 秀雄 田畑 佳則
1974年 広島大学理学部生物学科卒業 1972年 広島大学大学院教育学研究科修士課程修了
1977年 同大学院理学研究科博士課程後期退学 1981年 ジョージア大学大学院教育学研究科
博士課程修了
1977年 同理学部助手 1982年 広島大学教育学部助手
1983年 同附属中・高等学校教諭 1984年 同総合科学部講師
1986年 同教育学部福山分校講師 1990年 同総合科学部助教授
1989年 同教育学部福山分校助教授 1991年 同留学生センター助教授
1998年 同教育学部教授 1995年 同大学院国際協力研究科教授
2004年 同大学院国際協力研究科教授 専門分野:教師教育、国際教育協力
専門分野: 生物教育学、国際教育協力


広大フォーラム2004年8月号 目次に戻る