発明・特許紹介

ナノ多孔体と酸化チタン粒子の
新しいナノ複合体
―水中「環境ホルモン」を効率よく分解する光触媒
文・犬丸 啓
 ( INUMARU, Kei )
大学院工学研究科
応用化学講座助教授

 ナノメートル(百万分の一ミリ)のレベルで材料の構造を制御していろいろな機能をつくりだす「ナノテクノロジー」が注目されています。ここでは、ナノメートルサイズの穴をもつ材料(ナノ多孔体)と、光触媒として知られる酸化チタンの粒子をうまく組み合わせて、水中の有害有機物分子を効率よく分解する特許を紹介します。
 小さい穴(細孔)をたくさんもつ多孔体は、その穴の中に分子を濃縮・吸着する機能を持っています。例えば、活性炭は、ナノメートルより一ケタ小さいオングストロームレベルの細孔が多数あり、吸着剤として多用されています。ここで用いた多孔体は、シリカ(酸化シリコン)に直径三nm程度の均質な細孔がまるでハチの巣のように空いたものです(ナノ細孔シリカ、図左上)。多孔体一グラムの表面積が千平方メートルもあり、水中の有機物分子を細孔内に濃縮・吸着する作用があります。一方、酸化チタンには、光を吸収してまわりの有機物分子を分解する、光触媒作用があります。多孔体と酸化チタンを組み合わせる方法として、従来は、細孔の中に小さい酸化チタンを図のように分散させていました。これだと、酸化チタンの粒子が小さくなるため結晶が乱れ、光触媒として高い活性が出ません。本技術では、光触媒として高活性な結晶性の高い粒子を多孔体に直接に埋め込むことが可能になりました(図下)。
 このナノ複合体を使うと、河川を汚染する「環境ホルモン」として問題になっているノニルフェノールが効率的に分解されることが分かりました。多孔体の濃縮・吸着機能と光触媒機能がナノメートルレベルでうまく組み合わさった結果だと考えられます。



発明の名称:複合多孔体およびその製造方法、並びにこれをもちいた有機物質変換方法
発 明 者:犬丸 啓、山中昭司、笠原 隆
特願二〇〇四―〇九七一三五


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