PHOTO ESSAY -76-  金波銀波の海



海水中での光化学反応
Photochemical Reactions in the Ocean

文/写真・竹田 一彦

( TAKEDA, Kazuhiko )
大学院生物圏科学研究科
環境循環系制御学講座助教授

写真4 今年5月の研究航海終了時の写真。筆者前列左から2人目。前列右から2人目が我々の研究グループリーダーの佐久川弘教授。今年5月の研究航海終了時の写真。筆者前列左から2人目。前列右から2人目が我々の研究グループリーダーの佐久川弘教授。
写真1 採水器で海水を採取する様子。採水器(中央の灰色の筒)をワイヤーに取り付け、採取したい水深まで採取器を沈め、船上からおもりをワイヤーづたいに投下して採水器の蓋を閉めます。
写真2 試料を入れた石英製試料ボトル(左)。石英ガラスは一般のガラスとは異なり紫外線を通す性質を持っています。このボトルは本学理学部特殊加工技術開発室で作製していただきました。右に見える透明のプラスチックビンが浮きになります。
写真3 瀬戸内海に漂う試料。試料はロープの先端の透明な浮き(矢印)の下に数メートル間隔でつるされています。日没後に回収して試料ボトル中の物質の収支を測定します。
 河川や湖、海に太陽からの日差しがあたると、それらの水の中では太陽光によって様々な光化学反応がおきます。それらの反応で化学的に高い活性の物質(活性酸素など)が発生したり、水中の有機物が分解したりします。我々の研究グループでは海水や河川水中で起きている光化学反応を研究しています。写真は広島大学生物生産学部の附属練習船「豊潮丸」を利用して瀬戸内海西部で行っている研究航海の様子です。
 海水中での光化学反応には太陽からの紫外線が重要になってきますが、紫外線は海の表層から深くなるにつれて急激に弱くなっていきます。そこで海の表層から順々に数メートルおきに海水を採取して光化学反応で生成した物質の濃度を測定します。例えば、活性酸素の一種である過酸化水素は主に紫外線による光化学反応で生成しますが、この過酸化水素の濃度は日中に海面近くで高い値を示し、深いところでは低く、夜間になると徐々に濃度は低くなっていきます。
 また一日の間である物質が光化学反応でどれだけ無くなっているか、どれだけできているかを調べるため特別な係留装置を使った実験を行っています。前日の夜間にそれぞれの水深で採取した海水を写真2のような石英ガラスのボトルに封入し、ステンレス枠に固定し、透明の浮きにぶら下げ、日の出前にそれぞれの水深へつるします。試料ボトルのぶら下がった透明の浮きは数十メートルのロープで船(船は海上で停泊している)とつながれており、日中は写真3のように海を漂います。日没後、ボトルを回収し、そのボトル中の様々な物質の一日間の収支を測定し、海水中での光化学反応のメカニズムや役割について考えていきます。
 海水や河川水中での光化学反応は複雑で多くの側面を持っています。例えば水中の汚染物質は光化学反応によって分解されますが、これは自然の浄化作用として考えることができます。しかし、その分解生成物が元の物質より高い毒性や有害性を持つ場合もあります。さらには光化学分解された有機物は最終的には二酸化炭素になりますが、二酸化炭素は地球温暖化の原因物質の一つです。海水や河川水中の光化学反応はいまだよくわからないことが多くあります。これらの光化学反応に関わる物質を定量し、分布を調べ、動態を把握しさらにはその物質の行き先=運命(Determination, Distribution, Dynamics and Fate)を解き明かしていくことが重要であると考えています。

研究室のホームページ
 http://home.hiroshima-u.ac.jp/eac/index.html


広大フォーラム2004年8月号 目次に戻る