4月に国立大学法人広島大学が発足し、運営組織が大きく変わりました。広大フォーラム6月号では、学長と副学長から成る新しい大学の「トップ」への期待を、全部局等の教職員の方々18名にご執筆いただき、特集を組みました。8月号では、これに対する応答として、副学長を囲む座談会を企画しました。5月26日に開催した座談会には、副学長6名、6月号の執筆者5名、それに学生2名を加えた13名の方々に出席していただきました。また、本号の特集として、あわせて副学長室の紹介も掲載しています。

※広島大学学則第21条によると「職員」は「教員、事務職員、技術職員その他の職員」を示しますが、本特集では「教職員」も同じ意味で使用しています。

司会(平野) 本日は、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。広島大学には副学長が八名おられますが、スケジュールの関係で、研究・国際担当の吉里副学長と医療担当の弓削副学長はご欠席です。また、六月号の執筆者のうちから、ご都合のついた五名の方々にご出席いただいています。では初めに研究環境・研究条件について、教員の方から話題を提供していただければと思います。
お金の問題

熱のこもった議論が交わされた座談会
(本部5F2会議室にて。手前が副学長)
友澤 研究面では予算がかなり削減され、たとえば継続購入している雑誌を従来どおり買い続けるかどうかが問題になっています。それからもう一つ気になるのは、教員の数も目に見えて減っていることで、大変な時代になってきていると感じています。
前川副学長 教員個人が使用できる研究費という意味では、今年度から基盤研究費として配分される額が、教員一人当たり文系三十万円、理系六十万円となりましたから、額だけを去年と比較すると確かに減った計算になるでしょう。ただし研究費の考え方が今年から変わりまして、昨年までは教育費と研究費が込みで部局に配分され、各部局がそれを所属する教員に配分していました。ですから去年各教員が最終的に受け取っていたものは教育研究費でして、教育費も含まれていたわけです。今年から教育費と研究費を切り分けて、教育費の部分は各部局で全体として使う、研究費の部分は各教員に、基盤研究費として配分するということです。そのほかに、教育・研究特別経費、学長裁量経費、部局長裁量経費などがありますが、これらは各教員に満遍なく配分するのではなくて、大学の方針に基づいて戦略的に、あるいは競争的に配分されるという仕組みになっております。裁量経費の部分が増えたということで、最終的に各教員個人に渡る研究費が減ったように見えますが、光熱水料や非常勤職員の経費は本部で一括管理しますので、大学全体として見れば、去年並みだと思います。
友澤 部局によって違いがあるかもしれませんが、文学研究科は実員配分ということで、定年退職された先生のあとが補充されない間は実員分、つまりマイナス一名分でしか配分されないと聞いています。そうなると、文学研究科の場合は昔の小講座が今でも実質的な教育・研究の単位であるため、予算案はまだ示されていませんが、教員数の少ないところが大きなダメージを受けるという状況が予想されます。
前川副学長 予算配分のルールが今年から変わり、去年までは定員で配分していたのを、今年からは実員で配分することにしたのです。実員がいないのに定員で研究費をもらっていたのは、もらいすぎだという見方もできるわけですね。でも、それではこれまでどおり講座が運営できないという問題が起こるかもしれませんが、それは学長・部局長裁量経費、あるいは全学の競争的な研究資金を獲得していただいて、それで補っていただくということになろうかと思います。また、研究費を有効に使うために、今まではできなかったような方策を考えていきたいと思っています。たとえば、インターネットを通じて安く洋書を買えるようにするというようなことです。
桂川 一昨年ぐらいから、継続購入してきた雑誌のどこを削るかと、いつも先生方が協議されています。これまでもかなり削ってきた上に、また今年も減るというふうにおっしゃっていました。数学は化学や物理のように実験ではないため、本や雑誌がないと進みませんので、先生方の研究だけでなく、大学院生や学部生にも影響が出てきます。
間田副学長 実験や実習の授業をするためにも、講座を維持する上においても、基本的にどうしても必要な経費まで競争によって勝ち取らなければいけないという発想になることは不安です。研究活動等で競争するのは結構ですが、その結果が教育面の環境まで低下させるということは、教育機関としてはやってはいけないことだと思います。競争がすべての面に出すぎると誤解を招くと思います。
前川副学長 それは教育費と研究費を分けていますので、教育に必要な部分は学部全体として、学部の意向でお使いになられればいいし、あるいは部局長裁量経費がありますので、今言われたようなところはカバーできる部分もあるのではないかと思います。
高橋副学長 今年から経費的には配分ルールが非常に大きく変わりました。従来は学生当たり経費と教員当たり経費は最終的には込みで教員の手元にいったわけです。ですから、教員の意識としては、配分されたお金の中に、教育のために国から払われている経費が相当あるということをあまり意識せずに、自分は研究者だからすべて研究に使おうということもあったりするわけです。そういうこともあって、今回教育費と研究費を分けましょうということになったのです。教育費というのは、それぞれ教員個々に必要な経費もあると思いますけれども、教育というのは個人プレイではなくて、組織としてやっていく重要な活動ですから、その学部がどういう形で限られた教育経費を効果的に使って、その学部の学生の教育につなげていくかということを考えていく一方で、コスト意識を持って対応していくことが必要です。
三井 私のように民間企業に勤めた経験を持つ目から見ると、大学というか、公務員全体ですけれど、まだまだコスト意識が低いように見えます。メリハリをつけて、いるところには配分する、いらないところはきちっと削っていく、これを徹底すれば、かなりコスト合理化ができると思います。
 無駄な経費から削るという場合に、本や雑誌がまず削られていく対象になりがちなのが、図書館の人間としては悲しいところです。まず本から、高いものから削るというのではなくて、学生が読むべきものや研究にどうしても必要なものは残して、ありきたりにまず本からという考えは、改めていただきたいと思います。
司会 無駄を削ろうという場合には、大学側ではどこがどのような対応をするのでしょうか。
前川副学長 たとえば電気を消すとか水道料を少なくするというようなことは財務室の中の施設マネジメント会議が光熱水料の節減対策案を練ります。それから予算をカットするときには、本や雑誌から削るというような優先順位はありません。そもそも財務室が恣意的に予算をカットしているわけではなく、大学が定めた基準に基づいて公平に配分した結果、そうなったということだろうと思います。
高橋副学長 削ろうと思ったら削れるということは、非常にステレオタイプ的にその本を買っていて、買いはしたが一年間誰も見ていないというのが案外あるのではないでしょうか。
桂川 代々これは買っているからという理由で買っているものも、確かにあると思います。もちろん、内容も考慮されていると思いますけれども。
司会 電子ジャーナルとの関係はどうでしょうか。
椿副学長 雑誌と電子ジャーナルの関係は複雑です。電子ジャーナルの購入契約、金額というのは、紙媒体でどれだけのジャーナルを購入しているかということとリンクしています。また、広島大学だけで契約しているのではなく、大学がコンソーシアムを組んで電子ジャーナルの金額の交渉をしています。この金額は毎年かなりのペースで値上げが続いています。ですから、同じものを継続して取ろうとしても、一定の予算では非常に難しい状況だと認識しています。ただ、図書と電子ジャーナルを含めた雑誌の問題については、文系と理系とで考え方が違うところがありますので、その点については大学全体としてうまく合意を作っていかないと解決が難しいでしょう。また、図書の購入についても、研究用と教育用の関係で、限られた予算をどう有効に使うべきかという視点で考える必要があるでしょう。
興副学長 私は科学技術振興事業団において、科学技術の研究開発等に関する情報の流通促進についてかかわってきましたが、現在電子媒体の流れが大きく加速しているのが実情です。広島大学でも本当に図書として購入する必要があるものとないものとの峻別をして、電子媒体での利用形態を他に先駆けて、その展開を真摯に検討していくこととなれば、歴史的なものとして評価されてくると期待しております。大学における知的な活動にとっての雑誌の価値は極めて重要で、そう簡単なものとは思っていません。事実、雑誌に命を賭ける学会が多い状況ですから。これからの課題として、検討していただきたいですね。
高橋副学長 学生の理解を深めるためにいろんな教材を作っておられる法学部のある先生の話ですが、その費用が馬鹿にならないとおっしゃる。今はその教材作成費を全部自分の研究費でまかなっているので、何とかならないか、研究のための本も買えないと言われるんですね。そういう教材作成費について、全学的に、先生方の研究費以外できちんと手当てできるようなサポート体制をどう作っていくかは、これからの課題にしたいと思います。
人の問題
司会 お金のほかに人の面、つまり教員が減ってしまうのではないかというお話がありました。ここ数年退職教員の不補充という措置もとられてきていますけれども、教員の数は、研究・教育どちらにもかかわる問題です。
高橋副学長 法人化後、いわゆる国が管理する「教員定員」という概念がなくなり、従来のようにたとえば教育学部は何人とか文学部は何人ということがなくなって、人件費予算の枠内で、大学で自由に決められるようになりました。それで部局基礎分七十五%、部局付加分十五%、全学調整分十%というのができているのですけれど、これは現在たとえば教員が百人いらっしゃる学部が、何年か後には七十五人にまで減るということではないのです。ただし従来のように、今までいらっしゃった先生が辞めたあとを自動的にその分野の先生で補充できるという仕組みを取らない方向に動いているということは、ご理解いただいた方がいいのではないかと思います。
友澤 定員の削減を、一つの部局の教員でかぶるのなら相当ダメージがあるけれども、部局間で専門を同じくする教員が連携して一つのプログラムを打ち立てることができれば、そのダメージはカバーできると思って、個人的には教育プログラムに期待していました。しかし、聞くところによりますと、今のところそういう方向には進まなかったようですね。やはり従来の学部の枠が先にあったということでしょう。学内を見回せばそれができる人的資源があるのに、そうした議論がなされずすりあわせ的にやっているという印象を持っています。
ビジョン
難波 いわゆる無駄を省いていくというだけではなくて、今まであったもののあいた穴を新たに補充していく場合に何を補充していくのか。そのときに、全学連携という観点からとらえた場合、大学として、あるいは部局としてビジョンがいると思うんです。それなのに、大学全体が閉鎖的で、学内の連携が欠けているように感じます。たとえば情報をとってみても、教職員組合からの情報は速いし、わかりやすい場合が多いのですが、大学側からは、このホームページを見なさいとか、電子掲示板を見なさいという情報しか来ない。そういう情報の流通や連携という面のシステムづくりを、やらなければいけないのではないかと思いますし、この座談会のようなざっくばらんに話せる場を設けていただきたいと思います。
三井 ビジョンはとても大事だと思います。抽象的な高らかなビジョンはあるのですが、具体的なものになっていない。しかも上の方からビジョンを語る声は聞こえてきますけれども、われわれに知恵を出してくれというようなことを求められたことはありません。
前川副学長 広島大学の長期ビジョンは非常にはっきりしていて、学長がいつも言われるように、「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」ということです。その実現に向かう具体的なステップについても、ステップ1からステップ3まであって、繰り返しいろんなチャンネルを通じて広報されています。ところがそれがなかなか伝わらないということもおっしゃるとおりです。情報がもう少しうまく伝わるような工夫を、これからわれわれはやっていかないといけないと思います。
三井 牟田学長が、正式な、フォーマルな会合ではなくて、水戸黄門みたいに学内を回って、気軽に、学生に「君、どうだ」と声をかけてみるとか、現場の教職員の生の声を聞くとか、お忙しいでしょうが、やってみられてはいかがでしょうか。民間企業ではそのような努力をやっているところもあるわけですから。
興副学長 ビジョンについては、前川副学長のご指摘のとおりですが、今問われているのは、みんながやっていくべきこと、課題、タスクを明らかにしていくことではないでしょうか。いつまでに何をなそうとするのかというアクションプログラムを共有することが重要だと思います。ビジョンははっきりしているのですから。
学生の眼から
司会 法人化した大学はどのように変わったと、学生の眼には映っていますか。
玖島 実はいつ法人化されたのか、わからなかったんです。今日もらった資料を見て初めて、法人化されたということがわかりました。はっきりいって、学生まで情報は下りてきていないと思います。目に見えてどこが変わったのかがよくわからないというのは、上の人たちがどういうビジョンを持って、どういう考えで、広島大学をどうしていこうとしているのかが、ひとつずつ下がってきていないので、末端の人たちが動けないからだと思います。
森原 法人化については、広報誌や報道などでも知っていましたが、四月一日になったからといって、法人化されたんだという変化はあまり感じられませんでした。しかし、「学生係」が「学生支援室」という名称に変わるなど、私たち学生が気づきやすい変化もあります。先ほどうかがったお話の中で、お辞めになった先生のあとに必ずしも新しい先生が来られるわけではないという点が、学生としては少し心配です。
学生の位置づけ、顧客or主人公
司会 コミュニケーションがうまくいっていないのではないかというご指摘がありましたが、学生にも伝わっていない、事務職員にも伝わっていない、教員にも伝わっていないということでは、なかなか一つの広島大学にはなりにくいのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
塩谷副学長 『広大フォーラム』の記事などをきちんと読んでいただければ、非常に詳しく説明されてはいるんです。今は、たとえて言いますと、五右衛門風呂のように上の方だけが熱いので、かき混ぜて全体を熱くする必要があるという状況です。われわれもかき混ぜなければいけないし、情報を得る側も一緒にかき混ぜないと、共有はできないと思います。それから誤解している人が多いので確認しておきたいのですが、法人化しても、広島大学自体は国立大学なんだということです。国立大学の広島大学を、前は国が直接設置していたけれども、今は国立大学法人が設置するという形になったのです。ですから前の広島大学は継続して、今でも国立の広島大学なのです。それで学生の皆さんの身分的なものもそのまま続いているわけです。
高橋副学長 学長が折々、学生は顧客だと言われていますけれど、私は顧客という概念はあまり好きではありません。自分たちはサービスを受ける人間だとか、自分たちの満足の行く大学づくりをしてくれというだけではなくて、学生も積極的に大学づくりにかかわっていくということが大事だと思います。そのための仕組みを、われわれは作っていかないといけないと思うんです。
椿副学長 私は大学側が、学生をサービスを提供する対象者ととらえる意識をまだ持てていないのではないかと思っています。教育をするわれわれが、教員間の連絡をきちんとお互いに取り合って、学生にこういうサービスを提供しますということができる体制を作ることがまず最初にあって、その上で、参加意識を育てることも必要になってくると思います。今回コミュニケーションマークをわれわれは作ったんですけれども、たとえばサークルのユニフォームを新しく作り替えるときには、このマークをワンポイントで入れるなどして、ぜひ積極的に使っていただきたい。こういうことを手始めに、大学の印象を社会に対して強めるための道具というのを考えているわけで、そういう意味でも学生に協力してほしい部分があります。そうすることによって、ある意味での参加意識が高まってくるのではないかと考えています。
三井 学生はお客ではなく主人公だというのは私も賛成です。お客ならサービスを提供しないといけないですが、主人公だということで、主人公が自律して勉強・活動していけるためのサポートをいかに行うかという視点を持たないといけないと思います。
コミュニケーションマーク
難波 『広大フォーラム』を作って一生懸命私たちは伝達しようとしているという話はよくわかりますが、教育を専門としている人間からいえば、「一生懸命先生は授業をしています。学力が伸びないのは子どものせいです」と言っている議論とよく似ているように聞こえます。学生や教職員に情報が伝わっていないのはどこがおかしいのだろうといつも考えるのですが、そのわけは我が身の問題になっていないからで、我が身の問題にするには、そのためのプロセスが必要なんですね。これまで、情報が流れるときは大体お話とか説明会になって、議論を巻き起こすという形ではないんです。最初から共有ありきみたいな感じで、まとまって共有してということばかり言っているんだけれど、その前にはもっと論争があっていいわけです。その一例として例のコミュニケーションマークですが、今までのフェニックスマーク〔学章〕との使い分けはあるんですよね。
椿副学長 あります。
桂川 私は生協でフェニックスマークを使った広大グッズを作るグループに入っていたのですが、それは解散しました。今生協のお店では在庫分のみを販売していて、売り切れるともう新しくは作らないそうです。
難波 フェニックスマークがなくなったわけではないですよね。
椿副学長 学章とコミュニケーションマークの使い分けをはっきりさせました。
難波 けれど、僕も、学生も知らないんです。あのコミュニケーションマークがいろいろ議論されたときも、我が身の問題になっていないのです。たとえばフェニックスマークをなくすとか、使用を禁止するといったら、ちょっと待てという話になりますよね。そういう議論を起こして巻き込んでいくということをやって、初めて合意が得られることになると思います。その手続きが十分尽くされていないように感じます。
環境職場・労働条件の変化
司会 残り時間が少なくなってきましたので、最後に職場環境・労働条件の変化についてお話をうかがっておきたいのですが。
桂川 私の場合は、四月から労働時間が実質的には八時四十五分から十七時までになっています。十五分繰り上がったことでお昼休みが十五分減りましたので、あわただしく感じます。そのほかには係の名前が長くなって、伝えにくいですね。
高橋副学長 休日出勤についてですが、年間を通してみると、土日の学生の課外活動でオフィシャルな行事が相当あるんです。学生の対外試合などがあると、今までは関係する職員は当たり前のように出ていたのが、これからは当たり前というわけではなくなる。それをどのようにクリアーしていくかが、今悩ましいところです。
桂川 先生方が土日の振り替えを平日にされると授業とかちあうからできないということが問題になっています。
間田副学長 幼稚園や小中高の附属学校の教員の勤務形態の件ですが、日曜日に出勤して、一日クラブの指導や引率をしても、少額の手当しかつきません。そのあいだ生徒の責任を全部負っている。平日にその代休を取りなさいといっても、授業や他の指導があるから、休みにくいという難しい問題があります。法人化したことによって附属学校の教員も労働基準法に従わなければいけないということになったので、以前はできていたことをそのまま続けていると労働基準法上問題があるのではないかということになりました。この問題を解決することは大変困難と思われます。それから、事務職員の勤務時間管理が厳格になっていることを附属学校の教員も大学の教員も理解しなければなりません。休憩時間中に教員が仕事を頼んだ時、今は勤務時間ではありませんと座ったまま断るというのは、心情的に難しいことでしょうから。
司会 全国一斉に国立大学が法人化したわけですから、同じような問題はどこの大学でも起こっています。法人化に際して民間の手法を導入するという話がありました。労働条件については、私立大学は以前からいろいろ工夫をしてうまく切り抜けてきているのだと思いますが、国立大学法人では私立大学のような方策はとれないといった違いはあるのでしょうか。
塩谷副学長 私学の状況は詳しいことは知りませんけれども、一律にとらえるのはむずかしいのではないでしょうか。法人化は民営化ではありませんが、これまでの公務員法制から非公務員化して、労働三法が適用になる。今は移行期ですから、私学を含めた他大学の状況を研究しながら、軟着陸していくという形しかあり得ないだろうと思います。特に時間外勤務については、労使協定の中でもその縮減に努めることが強調されています。時間外勤務をできるだけ少なくというか、なくすようにしよう。つまり、これまでのように週一度水曜日だけではなくて、毎日が定時退勤になるように努力しましょうというようなことですね。もう一つは、仕事の簡素化、効率化とか、仕事のやり方の見直し。それからもう一つ、管理職員に対する啓発ということがあります。たとえば従来三時からやっていた評議会を一時半から開始して、なるべく時間内に終わるようにしようということで、六月から行うことにしました。部局で行われる様々な会議も、開始時間を繰り上げたりして勤務時間内になるべく終わるように、改善を図っていかなければいけないと思います。
難波 昼休み時間をもとに戻していただきたいと思います。それが目に見えて一番苦しい状況を事務職員に作っているわけですから。
塩谷副学長 それはちょっと難しい問題がありまして、昼休みを正式に一時間にすれば、終業時間を十五分繰り下げることになります。そちらがいいのかどうかということです。
難波 労働時間の管理を杓子定規的にしていいのかどうか。ただ住みよい大学を作るためにどうしたらいいかということでは、議論を重ねていかないといけないと思うんです。現場の職員たちとのコミュニケーションがもっと取れていれば、その問題もややこしくならなかったと思うんですけれど。
塩谷副学長 昼休みの件については少し工夫をするということで、労使協議の場で提案がしてあります。いずれにせよ、労働三法適用のいいところ、公務員時代のいいところ、といういいところ取りでは、外部に対して説明できないと思います。裁量労働制についても、これを導入しなければ、勤務時間は八時半から五時十五分までという原則が教員にもあてはまります。それと比較衡量しながら議論すべきものなんです。
難波 二者択一しかないのかどうかということも含めて、もっと議論した方がいいと僕は思います。
高橋副学長 職員の勤務時間の問題もあるのですが、もう一方で、授業時間、つまり九時から六時二十分という時間割も、見直さねばならないと私は感じます。学生にとってより豊かなキャンパスライフを考えたときに、毎日六時二十分まで授業があるのがいいのかどうか。
三井 法人化して以前より柔軟に対処できるようになったのですから、杓子定規にやらずに、私立も含めて他の大学をもっとリサーチして、本当に学生も教員もやりやすいような制度を考えるべきでしょう。この場合に、労働法制は民間で働く人しか考えていなくて、大学教員とか高校の先生には全然フィットしないという点に留意すべきです。そこで広島大学を実験台として、われわれの経験を踏まえて、あるべき労働時間法制のあり方、広大型というのを立法的に提言する。そういうことも、総合研究大学としての広島大学の積極的なアクション・取り組みではないかと思います。
塩谷副学長 それは今後検討していくことになっています。学生と教員と事務職員と、この三者が大学の主役だと思うんです。ですから三者が楽しく学習して、楽しく仕事ができるような、そういう環境整備をやっていかなければならないと思います。
最後に学生から
司会 お二人の学生に出席してもらっていますが、ほとんどしゃべる機会がなかったので、最後に一言ずつ簡単にお願いします。
玖島 到達目標というのは、上のほうのかたで考えられたことなんですよね。この到達目標を僕は今日初めて聞いたのですが、教職員の方はこの目標、「世界トップレベルの特色ある総合研究大学」という標語はご存じで、この到達目標を理解した上でお仕事をなさるわけですね。でも、話を聞いていると、組織の末端の動き方など、どうしていくのかがまだまだという感じがしました。
森原 情報共有と学生のボランティア活動という二点についてお話させて下さい。まず、情報共有についてですが、学内外で行われている資格試験やボランティア活動、講演、サークルなどについての情報の伝わり方に、学内で格差があるように思います。実際には活用できる情報があるのに、知らないままでいる学生も多いと思います。情報を全学で共有して、学生に発信していただけるようになればいいと思います。
 次に、学生のボランティア活動についてです。学内には、ボランティア学生が活動しているピア・サポート・ルームやボランティア活動室があります。また、ボランティアサークルもいくつかあります。しかし、まだまだ認知度が低いように感じます。大学でボランティア活動をしたくても、どこでやっているのか分からない学生も多いかと思います。そこで、学部新入生の「教養ゼミ」の時間をお借りするなどして様々な機会に、どういう活動をしているかをPRできる時間をもっといただけたらと思います。
司会 進行の不手際がいろいろありまして、いくつか論点が残ってしまいましたが、時間が参りました。今日はお忙しい中、長時間おつきあい下さいまして、ありがとうございました。
高橋 超 副学長
(教育・学生担当)
興 直孝 副学長
(社会連携担当)
椿 康和 副学長
(情報担当)
前川功一 副学長
(財務担当)




塩谷幾雄 副学長
(人事・総務担当)
間田泰弘 副学長
(附属学校担当)
桂川信子さん(理学研究科教育研究活動支援グループ) 友澤和夫さん(大学院文学研究科助教授)



難波博孝さん(大学院教育学研究科助教授) 濱 知美さん(図書館部学術情報基盤整備グループ) 三井正信さん(大学院法務研究科教授)



玖島徳幸さん
(理学部4年)
森原美佳さん
(文学部4年)
平野敏彦(司会)(広報委員会副委員長、大学院法務研究科教授)
 今回、初めて座談会に参加させて頂き、直接会って話をすることは大切だと感じました。聞かないとわからない事が多いということです。今後も定期的に副学長達との座談会を開いて頂きたいと切に願っています。
(桂 川 信 子)
*  *  *
 教育や研究での実質をあげるためには組織の柔軟性や風通しの良さが求められますが、こうした点で広島大学が解決せねばならない課題があると感じます。副学長の方々には新しい仕組みづくりに向けて一層のご努力をお願いしたいと思います。
(友 澤 和 夫)
*  *  *
 座談会に出てみて感じたことは、「今までの情報の流通の悪さ」でした。もちろんこれは、受け取る側にも責任があるのですが、「よい授業はまず学習者の意欲の形成から」といわれるように、発信する側にも、「受け手の立場に立った情報発信の工夫」がいるのではないかと思いました。
(難 波 博 孝)
*  *  *
 法人化より約二ヶ月、昨年度末の残務整理や新しい会計制度・会計システムへの対応に追われる毎日でした。そのような状況のため、広島大学としてどう変わったかよりも、昼休憩や超過勤務の問題が身近で切実であるというのが、率直な感想です。ただし、教職員の士気は大学全体の士気に大きく影響しますから、働きがいのある職場づくりを労使ともに目指していければよいと思います。
(濱   知 美)
*  *  *
 副学長の方々と直接お話ができてトップの考え方がよくわかりました。これからもこういう企画をちょくちょく設けていただきたいし、フォーラムの企画を超えて一般的にトップの方々と大学構成員が率直に話ができる場があればいいなと思いました。
(三 井 正 信)
*  *  *
 今回はトップの方々の話が聞けてよい経験が出来ました。二ヶ月たった今でも、やっぱり変化を肌で感じられません。私は体育会で活動しているので、課外活動全般の環境をより良いものにしてほしいと思っています。これからも学生の意見を聞く場をたくさん設けて広大が一丸となってすごい大学になっていければといいと思いました。
(玖 島 徳 幸)
*  *  *
 「学生が主役の大学に」と、どなたかが述べられていました。そのことが、大変印象に残っています。大学改革の中、教職員の方々の一層のご支援に期待する一方で、大学生活がより充実したものになるよう、学生が主体的に動いていく必要があると強く感じました。
(森 原 美 佳)


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