本年度に学部・大学院を卒業・修了するのは約四千名の方々です。本学に進学する人数を差し引けば、約  三千名が社会に巣立つことになります。本年度も、卒業・修了される方々から、在学時の思い出や後輩への助言といったメッセージを寄せてもらいました。
 卒業生・修了生の皆様、悔いのない学生生活を送れましたか。これから進まれる道は違っても、それぞれの目標に達するためには今までの努力を続けなければなりません。これからも、どうぞ広島大学を利用して下さい。そして、広島大学にも手を貸して下さい。ご健闘をお祈りします。

広島大学長
牟 田 泰 三
 日本最大の望遠鏡は、米国のハワイ州ハワイ島のマウナケア山頂(標高約4200m)に設置されている「すばる望遠鏡」であることは皆さんご存知でしょう。この望遠鏡は、口径8.2mで世界最大級です。そして文字通り世界トップレベルの観測が一九九九年一月の本格的稼動開始以来続けられています。
 1991年に「すばる」建設が開始されてから本格的観測活動が可能になるまでの期間、日本で測定装置のシミュレーションを行うために、五分の一サイズの光学望遠鏡が「すばる」と同じ仕様で作られ、「縁の下の力持ち」としてその建設を支えていました。この望遠鏡を「赤外シミュレーター」と呼んでいます。可視光線から赤外線領域までの観測をカバーする模擬装置という意味でこの名前がつけられました。
 シミュレーターとしての直接の役割は終えても、口径1.5mのこの望遠鏡は日本国内有数の望遠鏡であることに変わりは無く、観測対象によってはこれを使って第一級の研究が出来るのです。
 この望遠鏡が広島大学に、それも東広島の地にやってくるというニュースは、昨年の四月三日付け中国新聞の朝刊第一面記事で突然公表された形になり多くの人に知られるようになりました。けれども、こうなるまでには五年以上の私達のねばり強い国立天文台との話し合いと、これまでの大学院理学研究科の大杉節教授を中心とするグループの研究実績の積み重ねがありました。このグループは国際的な組織で、宇宙のかなたから時々地球に届く強いガンマ線の測定に乗り出しており、GLASTと呼ばれる観測用人工衛星の打ち上げ計画をスタンフォード大学のグループと共に準備しています。この宇宙現象はガンマ線バーストと名付けられていますが、その発生源は謎とされていたものです。広島大学に独自の望遠鏡を置き、それを光学的に観測することが出来れば、謎の解明にメスを入れることが出来ますし、また、その他多くの宇宙現象の観測にも便利なのです。
 平成14年10月には赤外シミュレーターの広島大学への移管も国立天文台運営協議委員会で了承されましたが、その移転設置場所としては、当初、広島大学から十五キロ以内で観測の適地が見つからず、岡山県鴨方町にある国立天文台岡山天体物理観測所のサイトにするのが妥当かと考えていました。しかし、一昨年末に「福成寺地区」という案が急に浮上しました。福成寺というお寺が新幹線東広島駅のすぐ目の前にある山の南東側にあり、お寺の名前がそのまま地名になっています。福成寺で大気の状態を観測した結果、驚くべきことに、そこでの測定の結果は、岡山県鴨方町と同等の大気の安定度を示していました。灯台もと暗しです。車で新幹線東広島駅から五分、大学からでも十五分の所にある山です。今年夏までには天文台建設工事を始め、年末には完成するでしょう。これで世界トップレベルの研究を可能とするステップができました。星だけでなく望遠鏡も輝くことでしょう。
 卒業生・修了生の皆さんも、それぞれの目標に向かってねばり強く努力を続け、輝く栄冠を勝ち取ってくれるよう心から願っています。


広大フォーラム2005年2月号 目次に戻る