1000字の世界

福井重油回収 ボランティアに参加して

文・挿絵 森藤 ゆかり(Morifuji, Yukari)
学校教育研究科美術教育専攻



かに  この春先、毎日のように報道された『ロシアタンカー・ナホトカ』による重油の被害、今では全く静かになってしまいました。あれから数ヶ月、日本海はどうなったのでしょうか。
 まだ冬の厳しさの残る二月。何か私にもできることはないかと思い、短期間では ありましたが、福井行きを決意しました。夕方、西条を出発。思いもかけない波と の遭遇のはじまりです。
 到着後、早速受付を済ませ、マイクロバスの中にすし詰め状態で移動。『福良の 滝』という小さな滝のある海岸に着きました。「石をめくって、その下にある重油 を回収してください」たったそれだけの説明を受け、不安のまま作業開始。小さな 石をめくり、小さな重油の塊を、大きな竹ベラでこそぎ取り、タオルで石をきれい に拭きとるのです。そのような単純作業をひたすら続けました。「こんなのきりが ないよ」と思ってしまいました。
 そんな中、重油の塊を取り除いたその下に、なんとも可愛らしいカニが生きてい たのです。すごくうれしかった。カニが生きているというたったそれだけのことが 何だかとてもうれしくて、ついニッコリしてしまいました。元気のいい小さな二匹 のカニと出会えて本当によかった。
 しかし、今回の福井では多くの矛盾も感じました。石をめくるごとに出てくるチ ュッチュ(氷菓)のから、空き缶や空きビンなど、人の手によって捨てられ たゴミがそれ。重油がどうだこうだと言う前に考えるべき問題ではないでしょうか 。さらに、賞味期限がかなり前に切れた食料やビール・日本酒といったアルコール 類などの救援物資。現場に届けられる前に気に入ったものがあれば自分のものにし てしまう一部の心ない関係者。出ていくよりも入って来る方が多いため、山積みに されたままの善意。なぜ、なぜ、なぜ。今回被害を受けた方々に、これらの物資は 本当に必要だったのでしょうか。
 今でも、あの時感じたこの波は大きく高く、打ち寄せて止まないのです。



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