フォトエッセイ(30)
東広島キャンパスの生き物
ホワイトクローバー
文・写真 実岡 寛文
(Saneoka, Hirofumi)
生物生産学部 生産基礎学講座
ホワイトクローバー
ほふく茎(ストローン)
(Trifolium repens)
牛の放牧(附属農場)
アカクローバー(Trifolium pratense)
芝生に繁茂したクローバー
イタリアンライグラスとクローバーの混播栽培(附属農場)
四月中旬、キャンパスの芝地や植え込みに白い絨毯たんを敷いたようにホワイトクローバー(シロツメクサ)が一斉に白い花を咲かせた。「ツメクサ」は和名。江戸時代、オランダ人がガラス器具(ギヤマン)を長崎港に持ち込むときに、その積み荷を保護するため乾燥させた草を積み荷の間に詰めて運んだことから「ツメクサ」と言われるようになった。
葉は三枚の小葉があり、それぞれ希望、信仰、愛情を表すという。四世紀の初め聖パトリックがキリスト教の最初の布教者としてアイルランドに渡った時、クローバーの三枚の小葉を例にして三位一体の教えを説いたと言われ、ヨーロッパではこの三つの小葉がキリスト教の三位一体のシンボルとされている。とくに「四つ葉のクローバー」は十字架に例えられ、幸福のお守りとして、またアイルランドでは国花として大切にされている。
クローバーは茎葉が良質のタンパク質やカルシウム、マグネシウムなどのミネラルを多量に含む重要な牧草である。日本で本格的に栽培利用されたのは明治時代に入ってから。牧畜の改良のため種牛種馬を輸入した北海道で、同時にホワイトクローバーの種子を欧米から大量に輸入した。
ホワイトクローバーは、一つの花序(頭花)に十〜八十の白色の小花をつけ、ハチ類などにより他家受粉する。また、茎は地面をはうように伸び(匍匐(ほふく)茎、ストローン)、節部より長い葉柄を出すとともに、そこから発根して成長する。一個体から生長するストローンを合計すると、時には数以上にもなる。
栄養価が高く、柔らかいため牛は好んで食べる。匍匐茎の成長点が地表すれすれにあるために、牛が採食しても再生長が容易であることからとくに放牧に適している。また、種子には硬実種子が多く、牛に食べられても消化されずに胃の中を通過して糞とともに排出される。排出された種子は、糞中の養分と光を十分に利用して発芽・定着して、ストローンを発達させる。牛の移動とともにいたる所に種子が分散できる。しかし、タンパク質濃度が高いために、クローバーを多量に食べると異常発酵により大量のガスが胃内に貯まり鼓腸症を引き起こし、ひどい場合には呼吸・循環障害を起こして窒息死する。そのために、タンパク質濃度が低く、繊維質の多いイタリアンライグラスやペレニアルライグラスなどのイネ科牧草と必ず混ぜて栽培(混播)し、利用している。
マメ科植物のクローバーは、空気中の窒素を生物的に固定し、自らの成長に利用しているる。クローバーが固定する窒素量は、年間一五〇〜一七〇キロ/ヘクタールである。これは、トウモロコシなどのイネ科植物を栽培するのに必要な化学肥料などに含まれる窒素量にほぼ匹敵するとも言われている。そのためやせた土地や消耗した農地に育てられて、地力を向上させるための緑肥としても利用されている。イギリスでは開墾した土地にクローバーが自然にたくさん生えると、そこでは豊かな作物の実りが約束されると言い伝えられている。クローバーの花言葉の「私は約束します」は、ここから来ているのかもしれない。
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