2000字の世界
磨きをかけたい
文・写真 星名 照美(Hoshina, Terumi)
生物生産学部
劇団「アドリブ集団金曜日」の面々と(本人前列右側)
最近、大学で行われる演劇を観に行くことが多くなった。セットの中で団員さんが役になり切り、登場人物を声、体、表情で表現する。その生き生きした姿に、会場は威勢のいいさわやかな雰囲気に包まれて心地良い。
一方で、同じ大学生がよく練られた脚本を書き、セットを作り、感情移入された素晴らしい演技をしていることが、悔しくもあり羨ましくもある。そして、「自分も何か創り出したい。そのために行動を起こしたい」と観客席で熱くなっている私がいる。
演劇を観に行くのは、劇そのものの面白さを期待するためだが、自分の持っているものを表現したいという、自己の内面に抱え込まれた感情を心の底から呼び起こしてくれるということも一理ある。
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大学一、二年次の私は、大学生活をかなり冷めた目で捉えていた。周りの人が表面だけ明るく振る舞っているように見えて、「大学生の人間関係ってさっぱりしているなあ」と感じ、人付き合いに充実感がなかった。「何かイイコトないかなあ」が口癖で、月に数回広島市内で観る映画が、心から私を楽しませてくれる唯一のものだった。自分が動き出せないでいるのを西条のせいにして「都会(まち)の大学生だったら」と空想に耽ふけったり「就職こそは都会でするぞ。そして、活気ある毎日を送るんだ」と社会人になる自分に希望を託していた。
そんな私が三年から学生宿舎の住人になった。宿舎の人間関係を通して、客観的だった大学生活が自分のものであるという実感に変わった。「自分で動き出さなければ何も手に入らない。充実した毎日にしたい。より大きな自分になりたい」という願いから、行動的になった。
宿舎のみんなとは、一日のうちの多くの時間を一緒に過ごす。夕食時にみんながキッチンに居合わすと、食事後、紅茶を飲みながらめいめいの今日のできごとや悩みごと、飲みの計画といった団欒としたお喋りが始まる。談話室で一緒に勉強していても、いつの間にかお菓子を持ち寄って恋愛談議が始まる。一緒に生活する時間が長いことはこうも人を親密にさせるのかと日々感じる。
また、お互いの夕食の味見をしながらゆったりと過ぎていくキッチンでの夕暮れ時や、隣人と夜明けの空の下喋りながらコンビニに行った日々も、「今」を楽しくする糧となっている。
これらの打ち解けた生活からみんなの個性をひしひしと感じる。ある人はいろんな本を知っていて、ある人は料理に長けている。みんなそれぞれ思い入れが深い部分を持っている。そして、お互いが知らない世界に触れ合うことによって各々磨き合っている。
どちらかの原石がもろいと磨きがかからない。「自分に磨きをかけたい」そう願う向上心を持った自分の世界を創り出そうとしている人が、語り合うことによってさらにお互い磨きがかかるといった相乗効果が生じる。宿舎ではそういう雰囲気が漂っている。みんな宝石のようにキラキラしている。そして、自分の人生を慈しんでいる。
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そんなふうに感じられる今、人と話すことが面白くて仕方がない。人との出会いも宿舎の仲間の紹介で増えていき、宿舎棟間の交流もある。多くの人との語らいの中でさまざまな考え方に触れ、時には奇抜な考え方に出会い、幅広い面から物事を捉えさせてくれる。
心開けて話してくれ、また、心開いた私を受け入れてくれる友人たちに感謝する。また、私が目に余った行動や発言をした時忠告してくれて、温かく見守ってくれる友人たちにも感謝する。
大学生活において人との語り合いは自分を成長させるために非常に重要である。軽いお喋りも楽しいけれど、人生における方針や世の中の捉え方、今後の目標など友人が真剣に考えていると気付いた時、その考え方を知り、友人の新たな一面を見られたことに嬉しくなる。
大学は人間関係の宝庫だ。学生、先生、職員の方々など人間関係を広げようと思えばいくらでも広げられる。私も、さまざまな人と知り合い、語らい、いろんな世界を垣間見ていきたい。
部屋の窓から他の宿舎棟の部屋の明かりがたくさん見える。これらの明かり一つひとつが、さまざまな世界を満たしているんだなあ、と思うとワクワクする。私自身も大きなキャンバスに絵を描いたり、実家から持って来たギターを弾けるようになって歌を作ったりと自分を表現して世界を築いていきたい。そして、内面から考え方や生き方が溢れんばかりの魅力的な人間になりたい。
広大フォーラム29期3号 目次に戻る