南カリフォルニア大学は,学生数28,000,教員数3,500,常時1万人以上の学部生の教育に携わるCollege of Letters,Arts and Sciencesを中核に,建築,工,経営管理,医,歯,法,芸術,映画などの専門18学部を擁する米国西部では最古の私立大学である。地元ではUSC (University of Southern California)と呼ばれ,親しまれている。 東からロサンゼルス市内を海岸へと抜けて行くサンタモニカ・フリーウェイと,北からドジャーズ・スタジアムを通って南下して来るパサデナ・フリーウェイがダウンタウンの南西部で直角交差する。その第3象限近傍,150エーカーほどの五角形の土地に本部キャンパスがある。ココア色の煉瓦で外壁を統一したクラシックとモダンな建物群が緑の中に静かに溶け込んでいる。 北を遥かに望むとダウンタウンの超高層ビルがスモッグの中に浮かび,南側には過去2回のオリンピックのメイン会場となったメモリアルコロシアムといくつかの博物館からなる広大な公園がある。コロシアムはUSCフットボールチームのホームグランドである。学生生活は抜けるような南カリフォルニアの青空の下で,勉学に勤しむかたわらビーチスポーツやスキーを楽しみ,ハリウッドをはじめとするさまざまなイベントに包まれ華やかである。 USCは全学生の15%が留学生という全米で三指に入る国際性を誇るものの,本来の特徴は,地域の人材教育に重点を置いた地方大学としての側面にある。多い学部では卒業生の75%以上が南カリフォルニア地域で就業している。そのためか,卒業生のネットワークである同窓会の組織はきわめて強力であり,大学発展の原動力である。さらにこの20年余り研究組織の充実にも力を注いだ結果,全米の研究大学ランキングでは現在10位以内にある。 もう一つの特徴はスポーツに大変強いこと。マスコットはTorojan(トロイの兵士)。これまで273人のTorojan familyをオリンピックに送り出し,輝かしくも金87,銀53,銅46を獲得している。 筆者は1996年4月より約1年間,客員研究員として工学部の土木工学科に滞在した。工学部は12学科,学部1,660人,修士課程1,200人,博士課程740人,専任教員135人。興味深いことに,学部の23%は学外又は他学部からの編入生(Transfer)である。全米の工学部総合評価ランキングでは過去8位から14位。 このようなUSCも,1880年わずか8エーカーの土地,53人の学生,10人の教師によって始められた。創立にはカトリック,プロテスタント,ユダヤ教など異なる三つの宗教団体に属する1,000人の市民,市人口の1割が関わった。「人種や宗教を超えた教育の機会均等」というUSCの建学の精神もそこから来ている。 米国の大学入試制度はおおむね面接なしの書類選考によるが,USCでは1995年秋,応募者16,582人の中から4,173人の入学が許可されている。その半数はPersons of colorであった。1870年代のロサンゼルスは,道路も舗装されておらず街灯もなかったとったと言う。そのような中で,地域の明日を担う人材を育てるべく高等教育機関の設立を切望したロサンゼルス市民の熱意が,私学USCには宿っている。 |