インドネシアと双方向の学術交流 
日本学術振興会の拠点大学方式による学術交流
 

文・ 小瀬 邦治 (Kose, Kuniji) 工学部第四類教授     
斎藤 公男 (Saito, Kimio) 大学院国際協力研究科教授
馬場 榮一 (Baba, Eiichi) 地域共同研究センター教授




 
 拠点大学方式とは 
 

 広島大学では、日本学術振興会の「拠点大学方式による学術交流事業」を活用してインドネシアとの学術交流を今年度から十年間にわたり実施することになった。
 その仕組みは、別図に示す通り学術交流実施の中心となる拠点大学(広島大学、スラバヤ工科大学)と、拠点大学に協力する協力大学及び協力研究者からなる大学連合組織によって構成される。
 交流の形態としては、研究者の交流、特定テーマに関する共同研究及びセミナーの開催などがあり、いずれも交流分野毎に双方の拠点大学の間で協議された実施計画に基づき、日本学術振興会と相手国の対応機関(インドネシア教育文化省)が合意したものについて行われる。事業計画は年々具体化して実施できるので、ある程度長期にわたり系統的に交流する場合に便利な制度となっている。今年度は、別表に示すように二十五交流が実施される。
図  工学部はスラバヤ工科大学と二十五年以上にわたり留学生の受け入れ、共同研究やセミナーの開催、人材の交流などを積極的に推進している。すでに同大学だけで十五人以上の工学部卒業生が教鞭をとり、船舶工学関係でも多数の卒業生がインドネシアの大学や産業界で活躍している。また、工学部は九五年にスラバヤ工科大学と学術交流協定を締結し(本誌三二二号に紹介)、研究者を日本に招いたり、最近では、マツダ財団の支援プロジェクトにより、同大学で毎年、海洋工学に関する日本インドネシアフォーラムを開催するなど積極的な交流を行っており(本誌三三〇号で紹介)、両校間で一歩進んだ協力のあり方を模索してきた。


別表 拠点大学交流(25交流)

対象国

交流分野

拠点大学

相手国拠点大学

中国

工学

バイオシステム

東京大学(工)

筑波大学

中国科学技術大学

北京大学

インドネシア

理工学

バイオサイエンス

水産学

海上輸送の総合研究

海洋科学

木質科学

地球環境科学

東京工業大学

名古屋大学(理)

東京水産大学

広島大学(工)

東京大学(海洋研)

京都大学(木質研)

北海道大学

インドネシア大学

バンドン工科大学

ディポヌゴロ大学

スラバヤ工科大学

海洋研究所

応用物理学・開発センター

生物学研究所

マレーシア

総合工学

医学

海洋科学

京都大学(工)

東京大学(医)

東京大学(海洋研)

マラヤ大学

マレーシア理科大学

マレーシア農科大学

フィリピン

医学

理工学

理学

神戸大学(医)

東京工業大学

上智大学(理)

フィリピン大学

フィリピン大学

コンソーシアム(フィリピン/アテオネ・デ・マニラ/デ・ラサール大学

シンガポール

理学

医学

総合工学

東京大学(理)

神戸大学(医)

京都大学(工

シンガポール大学

シンガポール大学

シンガポール大学

タイ

医学

日・タイ研究

農学

理工学

海洋科学

薬学

歯学

神戸大学(医)

京都大学(東南ア研)

東京農業大学

東京工業大学

東京大学(海洋研)

東京大学(薬)

東京医科歯科大学(歯)

マヒドン大学

タマサート大学

コンケン大学

キング・モンクット大学

チェラロンコン大学

チェラロンコン大学他

チェラロンコン大学




 海上輸送の総合的研究分野で 
   

 今回の拠点大学方式による学術交流事業では、海上輸送に関連した多くの分野の専門家が共同して現地の開発問題に取り組むことを目的としている。したがって、学内では工学部のみならず、国際協力研究科に所属する経済、土木工学など他分野の専門家も参加している。協力大学としては、船舶・海洋工学関係の学部・学科 を持つ東京大学や神戸商船大学など国内九大学がある。
 インドネシアは、中東や西欧から極東アジアへの物流の要路にあるとともに、経済成長に伴い物流の爆発的増加も予想される地域で、海上輸送に関する研究は、インドネシアのみならず我が国にとっても重要である。したがって、「海上輸送ネットワークの計画と評価」「港湾・船舶システムの概念計画と設計」「海事産業と技術の調査研究」などを長期的研究テーマとして取り上げている。
 今年度は、人物交流が主体で、九月にはインドネシアの海事技術者協会主催の国際会議が開催されるのを機会に二十人程度の研究者が現地を訪問し、スラバヤ工科大学、科学技術評価庁の流体工学研究所で両国の事業参加者の合同会議を開催し、分野別のグルーブ作り、共同研究テーマの発掘などが行われた。
 十月にはインドネシアからの訪問団を招へいし、来年度からの計画について討論するとともに日本側の参加機関、参加者と交流する。また、十二月には再度日本から研究者を派遺して、スラバヤ工科大学などでセミナーを開催すると同時に、来年度計画を企画する。
 共同研究のテーマとしては、インドネシア側の提案から、九七年度は「インドネシアにおける港湾開発の研究」「カリマンタン地域における河川輸送システムの研究」などが取り上げられた。



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