異年齢のかかわりにおける「やさしさと共存」

文・写真 望月 悦子



 創立八十五周年を迎えた附属三原学園では、幼稚園、小学校、中学校の園・校舎が同じ敷地内にあるので、園児・児童・生徒はひとつの校門を通って通園・通学しています。
 完全連絡入学制度がとられているので、三歳で入園した子どもは十五歳の中学三年生まで、ともに学びあえます。このことは親にも子にもゆとりを与え、その上幼い時からの様子を知っているので、自然に家族的なつきあいになってくる要因のひとつになっているように思えます。
 少子家庭で育つ生徒や児童は、園児に「おにいちゃん」「おねえちゃん」と慕われることにこのうえない喜びを感じるようで、戸惑いながらもかいがいしく世話をし、親しくなった関係を楽しんでいます。


やさしさを自然に表現する

 異年齢のかかわりでは、子どもが本来もっているやさしさを、感じたとおり自然に表現できる場がもちやすいようです。そのことを行事の実践例で述べてみることにいたします。
 運動会の種目に「おねえさんと一緒」という中学生の女子生徒、小学三年の児童、四、五歳の園児がそれぞれコンビを組んで演じる遊技があります。ある日その練習中に突然大雨が降ったその時、中学三年生はすばやく園児をおぶって避難しました。それを見た下級生も同じようにおぶって上級生に従っています。小学三年の小さい子が園児の大きい子を必死の思いでおぶって避難していると、上級生は片方で自分の園児をおぶり、片方で大きい園児を支えながら避難しています。
写真  体育館にそれぞれが集合した時には、上級生がハンカチで園児の濡れたところを拭いていました。園児は上級生にまつわりついたり、抱っこされたりして甘えています。誰に指示されたわけでもないのに実にスムーズに気持ちよく移動でき、逆に教師の方が驚き、感動しました。
 家庭で家族と基本的信頼関係を築いている園児は、幼稚園に来て、家族以外の人と触れ合いながらその信頼関係をさらに広げていきます。そういう時期に心あたたまる関係がもてることは、園児にとって実に幸せなことです。児童・生徒は自分のありのままの人格を、肯定的にまるごと受け入れてくれる園児に癒され、無償の愛の心地よさを実感できているようです。


こんな気持ちになれた自分を誉めたい気もする


 女子生徒に比べて、行事で園児と断片的にしかかかわっていない男子生徒徒は、中学三年の家庭科の授業で保育実習に来た時、次のような感想を述べています。
 「幼稚園に行ってみて、やっぱり園児は無邪気というか、正直というか、にくらしいというか、うっとうしいというか、扱いにくいというか、本当に悪気がないのかと思うような行動や言葉があったりして、怒るにも怒れず、とにかくなんだかとても大変だった」とか、「園児は僕たちとは違って、とても元気でいろんなことに積極的に取り組んでいた。やっちゃあいけないことをしたらどうなるかを知らないから、いろんなことが自由にできるのだと思う。
 園児は、最初は僕たちが教室に入ると知らぬ顔で見ていたけれど、だんだん話したり遊んだりしてとても仲良くなることができた。たった一時間であんなに仲良くなるとは思っていなかった。とても楽しかった」などと、自分たちとは違う園児の特徴に気付き、愛しく感じながら許せたり、認めたりしています。
 また、次のような感想もあります。「小さな子どもと触れ合うなんて、はっきり言って、性にあわないことだからあまりこの実習に僕は乗り気ではなかった。自分も昔、あんなだったんだろうけれども、とにかく好きではなかった。足どり重く教室にはいった。とりあえず、事はこなそうと思っていたが、案外悪くもなかった。結構かわいいものだ。そう思えるようになると、なんとなく気持ちが高揚してきた。
写真  一番印象に残ったことといえば、やはり、一緒に一生懸命にやった雪合戦であろうか(注:実習日は一月二十二日)。これは本当に楽しかった。はっきり言って、園児を楽しませようとする前に自分が夢中になってしまった。自分はまだ幼いなと思うと同時に、こんな時期にこんな気持ちになれた自分を誉めたい気もする。幼稚園実習は、短い一時間だったけれど考えさせられたことは多い。もう一度機会(二月二十六日)があるみたいだが、次はどうなるのだろう。非常に楽しみだ」とか「僕は最年少の桃組(三歳児)に行った。小さい子どもばかりだった。雪が降っていたので雪合戦をしたけど、小さな手でギュッと握ったほんの小さな雪のかたまりを重そうに一生懸命に僕らに向かって投げてきた。全く痛くもないのにそれでも何度も何度も投げてきた。かわいいなと思いながらも走り回っている幼児を見て、昔の自分を懐かしく思い出しながらも、ひたむきで 純真な幼児の行動から今の自分たちにはない温かさが感じられた」。


日々成長

 次の感想は、逆に園児との触れ合いの多い女子生徒が細やかに園児と関わった例です。
 「すみれ組(四歳児)へ実習に行った。最初はものすごくうるさくてわがままばかり言われるのではないかと思っていたけれど、行ってみると、みんな人の意見を聞くし、また、自分のしたいことも言うという子ばかりであった。運よく雪が積もっていたので雪遊びをしたが、本当に元気がよくて大変だった。子育ては体力だ。
 どうも恋愛とかもしっかり(?)しているらしい。『Aちゃんが好きなのにB君はCちゃんがかわいいから“ちゅき”って言ったよ』と語ってくれた時、“好き”が“ちゅき”に変わっていたのがまだまだうまく話せないんだなとほほえましかった。
 別れの時などは素直に寂しがってくれ、大人びた面と子どもらしい面が重なって、毎日いろいろなことをくみ取って、複雑に成長しているんだなぁと思った」。


おわりに

 このように中学生の保育実習の感想を見ていくと、多感な時期に自分の思い通りにならない園児との触れ合いは、生徒にとって貴重な体験となって、さまざまな感情を育てていることが理解できます。また、昨今の忌まわしい事件やいじめ問題などを考える時、幼き者を愛しく思える体験をすることは、成長していく過程において、きわめて重要な教育内容であると言えるのではないでしょうか。
 なお、保育実習の感想文は森澤秀隆君、竹丸雅寛君、正時崇司君、船越雅樹君、土居由佳さんのを引用させていただきました。


望月 プロフィール

(もちづき・えつこ)
◇一九四三年生まれ 広島県出身
◇一九六六年三月 広島大学教育学部小学校教育科卒業
◇一九六六年四月 広島大学教育学部附属三原幼稚園勤務
◇一九九六年四月 広島大学附属三原幼稚園副園長



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