フォトエッセイ(31) キャンパスの植物
 香木 Fragrant Wood  
 

文・写真 神田 博史  
(Kohda, Hiroshi) 
医学部附属薬用植物園




1) 香木1 2) 香木2
3) 香木3
4) 香木4
5) 香木5 6) 香木6
7) 香木7 8) 香木8

1)温室で咲いたSantalum album(ビャクダン)
2)白檀の香り漂う中国製檀香
3)附属薬用植物園温室で咲いたIllicium verum(ダイウイキョウ)
4)中華料理に使われる大茴香
5)インドより輸入された白檀
6)インドネシアより輸入した沈香,数万円もするとか聞く
7)温室内に栽植しているA.sinensis(ジンコウ)
8)温室内で咲いた低木咲きCananga odorata(イランイラン)


  
 古くから人々は「香水」、「お香」、「香辛料」として、「におい、風味」を生活の中に取り入れてきました。最近ではハーブやアロマテラピーなどが話題になり「におい」に対する新たな需要が増えてきております。これらの「におい」を作り出すのは多様な植物や動物であります。
 草本に比べて木本は、成長には非常に長い期間を必要とし、そのため生産される製品は高価であります。また再生に時間がかかるため、資源の枯渇が憂慮されます。医学部附属薬用植物園ではこのような問題を解決するための一方法として、植物組織培養を取り入れ、ダイウイキョウ、ビャクダン、ジンコウ、イランイランをはじめ、多くの種の植物について培養細胞での香気成分の生産と、種苗の大量増殖について研究を進めております。前記植物はこれまで日本では見る機会がなかった物であります。
 大茴香(ダイウイキョウ)は別名、八角茴香と称し、中華料理の重要な香辛料や、芳香性健胃薬として広く用いられております。中国南部からベトナム北部に分布するシキミ科の常緑高木Illicium verumの果実で、精油成分アネトールを含みます。本材料は十五年前に雲南省西双版納より導入した種より育てたものであり、現地では紅色花のようでありますが、当園のは淡紅黄色で未だに結実がみられません。数園に危険分散しておりますが、最近サシ木での増殖が可能となりました。
 白檀(ビャクダン)は別名檀香と呼ばれ、薫香料や工芸材料、白檀油などに用いられております。インドやマレーシアなどに分布するビャクダン科の常緑高木Santalum albumの心材や根から得られ、精油成分α−サンタロールやβ−サンタロールなどを含みます。生産には木を切り倒す必要があり、資源の枯渇が危惧されております。本種はかなり早くから、種子島薬用植物栽培試験場にインドネシアから導入されておりますが、成育特性は不明です。幼苗の間はイネ科等の植物に寄生していると言われ、培養再生株を独立して鉢栽培すると成長は認められません。
 沈香(ジンコウ)は別名伽羅と呼ばれ、高級線香や合わせ香などの香料として用いられたり、鎮痛、健胃薬として使用されております。インド、インドネシア、マレーシアなどに分布するジンチョウゲ科の常緑高木Aquilaria feralia, A.agalloc-ha, A.sinensisの樹脂を含んだ心材で、精油成分ベンジルアセトンなどを含みます。しかしながら材すべてが匂うわけではなく、特殊なカビが感染、発酵して香気成分が生産され、百本に二、三本と言われております。正倉院の宝物として有名な「らんじゃたい」がこの沈香であり、古来より非常に貴重なものとして扱われております。
 イランイランは、ヒマラヤからオーストラリアにかけて広く分布するバンレイシ科の常緑高木Cananga odorataであります。花を集めて蒸留したものをイランイラン油と呼び、高級香水の原料として用いられてきました。開花時期が限られる上に、花を付けるまで年月がかかるため大変貴重なものとなっております。 さらに十メートル以上になるため花の採取に手間がかかります。勾いはすれど花は見えずといった調子です。最近中国南部で樹高一、二メートルで開花する苗が見つかりました。当園の物はいまだ開花しておりませんが、エーザイの薬用植物園温室で咲いた写真であります。
 写真から香りは漂ってきませんが、皆さんを煙にまいてしまおうという訳です。


 
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