留学生の眼(60)

  雑色の日本  

文 金 文学(Jin, Wen Xue)
社会科学研究科博士課程後期



赤いチャイナドレス

 色彩感覚に現れる国民性の差異はさまざまである。中国を代表する色は何と言っても「赤」であろう。東洋、ひいては世界でも、中国人ほど赤の好きな民族はいないといえる。昔の宮廷、寺院、赤レンガの建物、国旗を見てもそうだし、ことに若い女性のファッションの色は圧倒的に赤系が多いのに誰でも気付くだろう。
 チャイナドレスの象徴的な色が他ならぬ赤色だ。中国人にとって、赤は吉兆と財運を意味する。旧正月(春節)にドアや室内を飾るお札は例外なく赤色に決まっている。赤い中国とか赤い社会主義といった政治やイデオロギーのレベルの赤の意味は別にして、庶民のファッションの色を眺めれば、その国民の色彩感覚が見えて興味深い。
 花嫁衣装の赤いドレスや衣類はいうまでもなく、中国女性が一番多く着用するのが赤色を中心とした鮮やかな色彩。これは男性も同様である。外出服を除いて春秋着の下着を見ると赤色が一番多い。中、小学校のユニフォームとして中国ではよく運動服を選ぶが、一番多い色がやはり赤系だ。赤がいかに中国人の好む色彩かが理解できる。


見分けのつかない日本人


 中国人が鮮やかな赤系統の色を好きだとすれば、日本人は鮮やかな色彩を避け、中間色、例えばグレー(灰色)系、薄茶色などの目立たない色が好きだ。そして、この中間色(私はここでは雑色と称したいが)は、何となく水洗いによって退色したような感じの色に見えるのだ。
 若い女性のファッションスタイルは、上下セットの薄茶色や紺色のユニフォームが目立ち、普段着にしても、中間色系列のTシャツやブラウスにジーンズ、あるいはミニスカートにハイヒール。髪型も肩までさがるロングストレートが中心で、日本人はみんな同じように見える。
 私の北京の作家の友人は、日本女性の統一傾向で地味なファッションに唖然として、経済大国の日本の女性の方がもっと派手で多様にきまっていると思ったのに、むしろ、社会主義中国の同胞女性のファッションの方がはるかに派手で、鮮やかだという内容のエッセーを中国の新聞に発表したこともあった。
 日本男性のファッションを見ても女性と同じ傾向が見られる。紺か茶色のスーツで、真ん中から分けた髪型にワクのないメガネ。これが日本のサラリーマンの決まり切ったスタイル。学生はTシャツにジーンズ。男性の好きな色も当然中間系の色が多い。日本人の服装の色やスタイルは中国、韓国と比べて統一的傾向が強い。


ファッションと国民性


 ファッションに現れた韓国人の色彩は、中国人や日本人よりも多様でかつ鮮やかな色、たとえば赤、黄、紺、橙系の原色が好きである。チマチョゴリの色彩は、日本の着物や中国のチャイナドレスよりも鮮やかである。ソウルでは、若い女性のファッションは目に刺激を与えるような色彩感にあふれている。
 北京の大手国際旅行社でガイドをしている私の友人が、ある酒席で「自分は韓国人と日本人をすぐ見分ける秘訣をマスターした」と言う。続いて友人はこう言った。「韓国人はとても鮮やかな色の服装をしていてよく騒ぐのよ。でも、日本人は男女を問わず割と無色系や地味な色の服装をしていて黙っているのだから」。ズバリそのとおりだと頷きながら、私もその見分け説に賛同した。
 ファッションや色彩やスタイルは、その国の国民性にも無関係ではないようだ。個人主義の強い韓国人は、ファッションの鮮やかさで自己表現や他人と違った個性を表すのではないかと思われる。中国人も韓国人ほどは個人主義ではないけれど、赤系列の鮮やかさで、強い個人意識を表しながらもある程度社会の集団の意識も気にしているようだ。東洋で最も集団主義と没個性に馴染んだ日本人の中間色彩や統一傾向のファッションは、日本人の国民性を象徴している。
 赤と原色は鮮明な性格の色彩であり、中間系の雑色は没個性な性格のシンボルであるに違いない。日本文化は、この意味ではまさに雑色文化といえよう。




プロフィール

金 一九六二年 中国遼寧省生まれ
一九八五年 東北師範大学日本文学科卒業
一九八五年より六年間遼寧省教育大学助手・講師
一九九一年 来日 同志社大学大学院留学
一九九四年 同志社大学文学修士号取得
一九九四年よ一年間同志社大学文学部客員研究員
一九九五年 同志社大学大学院博士後期、京都大学大学院研究生
一九九六年 広島大学社会科学研究科博士課程後期に入学し在学中
現在若手作家として中日韓で執筆活動で活躍中

著訳書
『中国文化の中の鬼神意識』(中国語)
『仮面世界と白色世界─日韓比較文化学』(訳書)
 『裸の恋』(中国語エッセー)
『変わる大地中国』(韓国語)

論文
「中・日・韓民間説話の比較文化論的研究」
「中国における世代文化の差異」
 その他、小説・エッセイ・文学評論多数発表
 中国で文学賞三回受賞
 今年中に『裸の三国志』を日本、中国、韓国で同時出版予定(日・中・韓三国人を比較する本)



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