当今広大就職事情

 昨年度の就職戦線は、超氷河期とまでいわれた。今年はやや好転の兆しがあるという。しかし、依然として厳しい状況に変わりはない。来年度以降も厳しい状況が続くと予想されている。学生にとって、就職は大きな関心事である。大学もまた無関心ではいられない問題である。学生の進路を確保することは、大学の社会的責任といえよう。
 広大生の進路は、民間企業・教員・公務員・進学に大別できる。本特集では特に民間企業就職に焦点を当て、現今の就職事情を紹介することにした。民間企業就職に絞った理由はいくつかある。まず、本号の発行時期の関係で、教員・公務員・進学等の進路について取り上げることは難しかった。民間企業就職は広大生の進路の中で最も多数を占めており、就職協定が廃止された今年の就職戦線については関心が深いのではないかとも考えた。
 就職問題はきわめて重要な問題であるにも関わらず、これまで全学的に十分な検討が行われてきたとはいえない。本特集が今後の検討の参考になればと願っている。また、在学生が進路の問題を考える際の一助になればと思う。



   就職環境の変化   

就職協定の廃止

 大学等関係団体と企業等関係団体は、就職協定協議会を作っている。平成八年度まではこの協議会で「就職協定」が締結されてきた。「就職協定」の最大の目的は、就職・採用活動の早期化を防ぐことにあった。企業研究会・説明会、リクルーターとの接触、求人票の公示を七月以降としたのは、大学教育への影響を最小限に止めるためであった。同協定は一定の効果を上げてきたが、近年は有名無実化の傾向が著しくなっていた。
 昨年十月、日経連の根本会長は記者会見の席上、協定の遵守が確認されなければ協定の廃止もあり得ると発言した。この発言に対し、大学側の代表で作る就職問題懇談会は協定の存続を求めていくこととし、企業側が遵守体制を強化するならば、大学側も前向きに遵守体制強化を検討することを決定した。企業側には現実として有名無実化した協定を存続することに対する疑問があった。一方、大学側は大学教育への影響を回避する協定の理想に固執した。
 折衝が繰り返されたが、本年一月になり平成九年度の就職協定は締結されないことが確定した。就職協定に代わるものとして、大学側は「平成九年度大学及び高等専門学校卒業予定者に係る就職事務について(申し合せ)」(以下、「申し合せ」とする)を、企業側は「新規学卒者採用・選考に関する企業の倫理憲章」(以下、「倫理憲章」とする)をそれぞれ定めた。
 前者は従前の就職協定同様「解禁日」を明示している。求人票の受理・公示は六月一日以降を原則とした。これは前年までの就職協定と比べると一か月早まっている。企業研究会・説明会、学校推薦、会社訪問等の時期は、協定を踏襲し七月一日以降とした。「申し合せ」は、「学生に対し、七月一日前の会社訪問等を慎むよう指導する」などの規定を盛り込んだ。意外にもというべきか、指導に当たる大学教官等から当惑する声 は聞かれなかった。「申し合せ」の性格の一端が示されているといえるかもしれない。
 後者の「倫理憲章」は、正式内定日を十月一日とするほかは日程についての規定を設けていない。企業側は採用日程について自由な立場を確保し、大学側は「解禁日」を申し合せるという変則的な形で平成九年度の就職戦線は幕を開けた。  

広大生の進路状況

   広島大学では毎年約三千名に上る学部卒業生を送り出している。平成八年度卒業生について見ると、卒業生三千六十名の内、六〇・七%に当たる一八五九名が就職希望者であった。就職希望者に占める就職決定者の割合(就職率)の推移は、表1のようになっている。五年前と比べると男女とも約一〇ポイント低下している。近年の厳しい就職状況が就職率に反映していることがわかる。

表1 過去5年間の就職率(学部生)

年度

就職希望者

(A)   人

就職決定者

(B)    人

就職率

(B)/(A)   %

4年度 1001 707 1708 950 655 1605 94.9 92.6 94.0
5年度 1009 742 1751 913 661 1574 90.5 89.1 89.9
6年度 920 613 1533 808 539 1347 87.8 87.9 87.9
7年度 941 760 1701 792 625 1417 84.2 82.2 83.3
8年度 991 968 1859 834 713 1547 84.2 82.1 83.2

 平成八年度についていえば、三一二名が未就職の状態になっている。潜在的未就職者である就職留年者も含めて考えると、相当数の学生が就職先の決定に至らなかったことになる。未就職者を減少させることは重要な課題であるが、未就職者の実情について詳しい資料を得ることはできなかった。
 過去五年間の就職先を示したのが、図1である。全体で見ると企業に約六割の学生が就職している。残りの四割が教員と公務員である。三大就職先の構成に大きな変化は見られないが、教員就職は減少傾向にある。代わって団体等への就職が増加傾向にある。
図1

 男子学生についてみると、企業就職がやや増加傾向にある。五年前に六八・二%であった企業就職は平成八年度には二ポイント増加して七〇・三%に達している。不況の影響は、従業員五百人以上の企業への就職が減少したことに現れているが、全体的に健闘しているといえよう。
 これに対して女子学生の就職先には、就職環境の厳しさが現れている。女子の就職先として大きな比重を占めてきた教員採用は減少傾向にある。教員就職と並ぶ就職先である企業就職は、四〇%台半ばで横這いないし減少傾向にある。企業の採用人員抑制は、特に女子の企業就職への進出を困難なものにしたといえよう。
 後述のアンケート調査によれば、女子学生の六六・一%が女子は企業就職で不利だと答えている。教員・企業への就職が厳しい中で、公務員・団体等への就職が増加している。公務員・団体等への就職者の合計は、平成四年度には一五・五%であったものが、平成八年度には三一・九%に達している。ここに厳しい状況下にあった女子学生のたくましさを見て取ることができる。



 広大生の就職活動実態 



調査の概要

 大学の教官の大多数は、就職活動を経験したことがない。三年次生以下の在校生もそうである。大学は就職活動について知らない人でいっぱいである。書店には就職関係の書籍が並んでいるが、広大生の実態について知りたいと思った。
 幸いなことに就職問題検討小委員会は昨年七月、就職内定者へのアンケートを行うことを決めた。広大としては画期的なアンケートで、本特集でも使わせていただけるのではと期待していた。ところが今年になって、このアンケートは行わないことにしたのだという。急きょ、広報委員会でアンケートを実施することになった。
 経済学部の学生が運営しているホームページSLADに、経済学部生を対象としたアンケート調査結果が掲載されていた。就職協定下の就職活動状況を知る資料(以下、「経済学部データ」とする)として貴重なので、アンケート項目作成の際の参考にさせてもらった。
 調査は、七月二十七日から八月五日までの期間、東広島キャンパス各学部四年次在学生二七八三名を対象に行った。チューターを通して質問紙を配布するとともに、SLADを通してオンラインでの回答も可能にした。夏季休業にかかる時期で回収が危ぶまれたが、七一二名(二五・六%)から回答が得られた。理系学部の回収率が高く、文系学部の回収率が低いなどサンプルに一定の偏りが見られた。卒業後の希望進路では、昨年度の実績と比べて進学が高く、教員・公務員が低かった。これは、理系学部の回収率が高かったこと、教員採用試験や公務員試験で帰省中の学生がいたこと等の影響と考えられる。


就職活動は早期化の傾向

 アンケートでは、企業就職希望者に対して就職活動の時期について尋ねた。
 まず、就職を意識し始めた時期について尋ねたところ、三年生の後期の時期に集中していた(図2)。本誌の発行される十月は、三年生が就職に対して意識し始める時期のようである。
 実際の就職活動の時期は、図3に示した。企業就職希望の学生は資料請求のハガキを出すことから始める。資料請求活動は十二月頃から始まり、二月にピークを迎えた。これは「経済学部データ」よりやや遅くなっている。この段階では就職協定廃止の影響はまだ現れていない。一人の学生が出す資料請求ハガキの数にはかなりのばらつきがあり、平均すると四八・一枚であった。
図2



















図3  三月になると企業との非公式な接触が一斉に始まっている。セミナー参加は三、四月に集中している。リクルーターとの接触も四月がピークになっている。「経済学部データ」で実際に企業と接触した時期のピークは、五月となっている。一か月日程が早まったと見ることができよう。セミナーへの参加回数の平均は一〇・六回であるが、中には五十回という学生もいた。リクルーターとの接触は、平均三・五社となっている。
 企業との非公式な接触を経て人事面接が始まる。人事面接の過程の中に筆記試験に組み込まれることもある。今年の場合、人事面接は三月には本格化しており、五月にピークを迎えた。「経済学部データ」によれば、昨年度までの人事面接は五月に本格化し六月にピークを迎えていた。本年度の人事面接には、早期化とともに長期化の傾向がみられた。学生は平均六・二社の人事面接を受けている。一社当たり三回の面接が行われたとすると、延べ二十回近い面接を受けたことになる。学生が面接のために費やすエネルギーもさることながら、わが国の企業が人事採用にかけるエネルギーの莫大さを考えると、思わず頭が下がってしまう。
 ちなみに、就職活動には結構お金がかかるという声を耳にするので、就職活動に要した費用を尋ねてみた。その結果は、図4のとおりである。全体的に見ると十万円以内におさまっている学生が多いが、文系学部には相当の負担になっている学生が見られる。就職費用の内で大きな比重を占めるのは、旅費宿泊費である。広島以外の企業を希望する学生にとって、広島の地の利はあまりよくない。
図4

 人事面接にパスすると晴れて内定の運びとなる。実は内定というのは正確でなく、内々定というべきなのである。「申し合せ」も「倫理綱領」も内定は十月一日以後としており、それ以前の内定というのはありえない。ところが、今年の場合特に内々定という言葉は死語になっており、内々定のことを内定というようになっている。以後の文中で内定というのは、内々定のことだと理解して読んでいただきたい。
 「経済学部データ」によると昨年まで、内定は六月になると一斉に出されていた。今年の場合もピークは六月であったが、早い場合には四月から内定が出され始めていた。内定をもらうと就職活動はそれで終わりということもある。四月に就職活動は終わったというケースもあるのである。しかし、二つ目三つ目の内定をもらうために就職活動を続けるケースもある。図3に「就職決定」とあるのは、就職活動を打ち切った時期と考えてそれほど間違いではない。
 今年の就職戦線は就職協定の廃止により、学生にも企業にもとまどいと混乱が見られた。アンケートの自由記述には、「意味もなくあせっているだけの学生が多かった」、「スケジュールはやりたい放題ですっかり翻弄されてしまう」などの記述が見られた。
 一方、「多くの企業に接触することができた」と肯定的に評価する見方もあった。ある学生は企業側の動向について、「企業側もとまどっているらしく、他の人はどのくらい就職が決まっているのかなどの質問をされた」と記している。企業にとっても手探りの就職戦線であったことがうかがえる。
 八月十九日付け『中国新聞』によると、十八日に第四回広島県中小企業同友会の合同企業説明会が開かれた。「今年は就職協定廃止で各社とも早めに採用活動を始めたが、大企業の採用増で内定辞退者が相次ぐ中小企業が多い」との同会のコメントが載せられている。
 就職活動が長期化すれば当然のことながら、大企業でも内定辞退者が増えることになる。学事日程への影響・辞退者の増加というロスを、企業・学生がともに納得できる採用・就職のためのコストと考えるかどうかであろう。


就職活動における広大生の価値観

 就職活動は労働力という商品の取引であり、一種の経済活動である。学生は自分という商品をセールスし、企業はより有利な商品を選択する。これは自明なことのはずである。しかし、広大生の就職活動のプロセスを見ていると、自明なこととして片づけられない側面のあることに気付く。
 SLADには、live就職日記や就職体験記のコーナーがある。経済学部の男子学生は後輩へのアドバイスとして、次のように書いている。「就職活動では、この先何十年も働くことになる企業を選ぶ訳ですから、人気やイメージに流されずに慎重に自分に合う企業を探してください。私の意見ではこの活動の目的は内定をもらうことではありません。社会人との会話や自分を見つめ直す作業などを通して得る知識や積極性や明確な将来の目標などがその目的だと考えています。ですからその過程でうまく行かないことがあっても、めげずに次に進みましょう。そこで得た物は次回役に立つでしょうから」。
 この学生に限らず、就職活動を自己の成長の機会と考えている学生が多いのである。考えてみれば、学生にとって社会と主体的な関わりを持ったり、自己を見つめたりする機会は、彼らの人生においてあまりなかったのかもしれない。就職は彼らにとって価値観が問われる機会なのである。
 アンケートでは、企業選定の際、何を考慮し何を考慮しなかったかを尋ねた。その結果をまとめたものが、図5である。企業を選定する際の第一次的基準は、業種と職務内容である。この二つの項目については多くの学生が非常に考慮したと答えており、考慮しなかったと答えた学生はごく少数であった。これらの事項は、企業選定の前提となる事柄である。
図5

 第二次的意味を持つものは、適性・社風・待遇・勤務地・専門である。これら五項目について考慮した学生は多いが、「非常に考慮した」と「やや考慮した」が相半ばしている。この五項目に共通するキーワードは「自分の条件に適したもの」ということになろう。適性はもとより、自分の性格に適した社風の企業、自分の希望に適した待遇、自分の生活に適した勤務地、自分の専門に適した企業など、自己の条件との関係で考慮される事柄なのである。自分の条件の内の何を重視するかで、「非常に考慮した」と「やや考慮した」に別れたと考えられる。
 第三次的意味を持つものは、規模・知名度である。この二項目については過半数の学生が考慮しているが、「非常に考慮した」者の比率が低い。企業の内実は規模や知名度で決まるわけではないので、「やや考慮する」ことになったのであろう。企業からの働きかけ以下の項目は偶然性に支配される事柄であり、考慮しなかった者が多数を占めている。
 このように見てくると、就職活動は自己を見つめ直す機会だという感想がうなづける。広大生が自己を見つめながら、就職活動に主体的に取り組んでいる姿を見て取ることができる。
 アンケートでは、就職活動にとって大事なものは何かを尋ねた。その結果を示したのが図6である。「とても大事」という回答が八〇%を超えたのは、自己表現・自己分析・面接の三項目である。自己を見つめ、それを面接の場で表現すること。これが就職活動において最も肝要な点であると、彼らは考えている。
図6





就職活動におけるインターネット利用

 昨年度はインターネット就職元年といわれた。さしずめ、今年はインターネット就職二年ということになる。そこでインターネットの利用状況についてアンケートしてみた。
 まず、インターネットの利用経験があるか尋ねたところ、経験者は八一・一%に上った。意外に高い数字になっているが、サンプルの偏りのために高めの数字になったのかもしれない。
 インターネットの利用経験のある者に、就職活動に使用したかを尋ねたところ、使用頻度を別にすれば七一・四%の学生が就職活動にインターネットを利用していた。回答者の五七・九%が何らかの形で就職活動にインターネットを利用していたことになる。利用方法では「企業のホームページをみる」が最も多く、「就職情報誌のホームページを見る」「セミナーの参加申し込みをする」「企業へメールを送る」などがこれに次いでいた。
図7

 就職活動におけるインターネットの有効性については、おおむね効果的という回答が多かった(図7)。来年度以降に就職活動を行う学生には、インターネットのより有効な利用法を研究してほしいと思う。参考までに、アンケートに記された意見を以下に掲げておく。「インターネットは、役に立たないと言う人が多いが、それは使いこなせていないということ。僕の場合は、HPに逆に企業がアクセスしてきたり、自分のページを面接の前に見てもらった。評判はよかった。メールをだして、会社訪問をしたこともあったし、メーリングリストを使って、事前に筆記試験でなにが出るか、小論文のタイトルは何かということまでわかって会場に行った事もしばしばあった。情報に関してはたけていたし、多くの情報にふれて、企業がどこを観るのかも大体見当がついたので自信をもって活動できた。やはり、情報を整理できないとアクティヴな活動はできない」。
 広島大学は東京や大阪などにある大学と比べると、地理的条件から就職活動に不利な面がある。インターネットはこの不利を埋めるのに役立つかもしれない。



 大学はいかに対応すべきか 

 アンケートでは、大学・学部の進路決定支援体制について意見を求めた。その結果をまとめたものが、図8である。回答者には進学希望者なども含まれており、その分甘い評価となっている。就職希望者だけについて集計すると、やや厳しい評価になることを断っておきたい。
図8

 大学はいかに対応すべきかという問題を考えるのに際し、まず、ある学部の女子学生から寄せられた意見を紹介しよう。
 「(前略)学部のホームページに『就職について』というページがあります。その冒頭には『大学はあくまで教育・研究の場であって、就職を直接の目的とした指導はしていない』と書かれています。これを見て国立大学はすごいと感心してしまいました」。
 皮肉だなと思いつつ、筆者は念のためそのページを見てみた。そのページ全体から判断すれば、「直接の目的とした」というところに意味が込められているように筆者には読めた。彼女の読みには誤解が含まれているようだが、全くの誤解とはいえないようにも思う。「大学はあくまで教育・研究の場であって」という一節に、就職は自分で考えろという大学の姿勢が見え隠れしているようにも思えるのである。  事実、国立大学で私立大学のような就職指導をしてこなかったのは、この古典的な正論が支配的であったからである。教育活動の中に進路指導が含まれていないことに対して、「国立大学はすごい」と皮肉られているのである。大学における「教育」の範囲について論じ始めると主題からずれてしまうが、大学における就職指導のあり方についての論議の背景には、大学教育観の問題があることを指摘しておきたい。
 アンケートにはさまざまな要望や意見が書かれていた。そのほとんどは所属する学部や学科での経験を基にしており、事情のわからない筆者にはどのように理解すればよいのかとまどうものも多かった。ここでは、学部内で解決しにくいと考えられ、かつ建設的な内容を持ついくつかの問題に絞って考えてみたい。


情報提供体制の整備

 「就職コーナーが狭すぎる。他の大学も多数行ってみたが、こんなに情報量が少ない大学はなかった」など、情報量の不足を指摘する声が出されている。不足している「情報」の内容は定かではないが、求人依頼情報を意味していると理解することにする。
 求人依頼情報が少ないとすれば、二つの事態が考えられる。一つは、広島大学に寄せられる求人依頼件数そのものが少ないために、このような事態が生じているケースである。もしそうであれば、求人依頼件数を増やす働きかけが必要になるであろう。しかし、このような事態が生じているとにわかには考えにくい。
 考え得る二つ目の事態は、求人依頼情報が分散しているために、情報量が少ないように見えるケースである。「学部間の情報量の差がありすぎると思う」という指摘はこのことを裏付けている。学生部厚生課が発行している『求人のための広島大学紹介』には、広島大学の就職斡旋システムが図示されている。これによると、求人先企業が広島大学に対して求人依頼を行う際の窓口は、学生部厚生課と学部学生係・担当教官の二つに別れている。つまり、企業の求人依頼は学生部を通さずに学部に出されるケースもあるのである。窓口の一本化されている大学では情報量が多いように見え、広島大学のように窓口が分散しているケースでは情報量が少ないように見えるのではないだろうか。
 窓口一本化は学部の利害の絡む問題ではある。しかし、どの学部においても、求人依頼情報情報は他学部生も見ることのできる状態になっている。一元化しても利益を損なわれる学部はないはずである。「就職用資料はもっとわかりやすくきれいに配置してほしい。探すのだけで時間がかかり非効率的だった」というような問題があることも考えれば、一考してよい問題のように思われる。


就職課の設置

 「私大の就職部のような体制を望みます」「就職課をつくってほしい」などの要望が出されている。この問題は上記の窓口問題とも表裏一体の問題である。『求人のための広島大学紹介』によれば、広島大学で取られている現行方式は次のように説明されている。「就職斡旋に関する主要業務である選考及び推薦は、各学部の学科(教室)の担当教官が担当し、その事務は各学部の学生係で取り扱っている。また学生部厚生課では学部との連絡・調整等の統括的事務を行っている」。
 広島大学では学部分散方式が基本にあり、厚生課では連絡・調整等の事務を行っているのである。
 学生に就職課設置を望む声があるのは「民間企業のことを詳しく知っている専門職員をおいてほしい」など就職相談業務に対する要望があるからでもある。ちなみに、学生の就職に関する相談は学部学生係・担当教官が受け付けることになっている。ところが「誰に聞けばいいのかよくわからない」という声があったり、「就職担当の先生はいても、別に相談するような気分になれないし、個人で頑張れという感じだった」「就職担当の先生はいつ行っても相手にしてもらえなかった」など評判はあまり芳しくないようである。


学事日程と就職活動

 広島大学では本年度から学年暦を改めた。民間企業はもとより、教員採用試験・公務員試験などの実施時期も学期中になった。学事日程と就職活動が重なるために、問題が生じることになる。「就職委員の先生が、教採のため試験が受けられないのに、認めなかった」「やむなく学校を休む場合など考慮してほしい」など、学生には大学側の配慮を求める声がある。
 この問題は就職協定協議会の場でも、常に問題とされてきた点である。大学側は就職活動の時期を七月以降とすることを求め、就職協定が廃止された今年は「申し合わせ」で就職活動の「解禁日」を七月一日以降とした。「学生に対し、七月一日前の会社訪問等を慎むよう指導する」ことになっているのであるから、就職活動で授業に出られないという学生がいれば、就職活動は七月になってからにしなさいと指導すべきなのであろう。そこまでまじめでない教官は、黙認することになる。
 建前の議論の枠内で考えるとすれば、学事日程を調整するしか方法はない。「四年前期に授業が多すぎる。就職一本に打ち込んでくる私大生などと互角に戦うにはかなり要領がいる」という声もある。これまでの大学教育の質を低下させることなく、しかも就職活動にも支障を来さないカリキュラムの工夫はできないものであろうか。再考してみる必要があるようにあるように思われる。


その他の問題

 女子の就職問題に対する取り組みの問題、同窓会機能の問題、推薦をめぐる大学院生と学部生の優先問題、ガイダンススケジュールの問題、学割の枚数制限の問題など、就職に関して大小さまざまな問題があるように思われた。アンケートの断片的な記述から記事化するのは難しかったが、いずれもしかるべき検討がなされてよい問題のように思えた。

【文・大林正昭(広報委員)】

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