原医研国際放射線情報センターは今


文 写真 田中 英夫(Tanaka, Hideo)
星 正治(Hoshi, Masaharu)
原爆放射能医学研究所国際放射線情報センター


  地図  当センターの設立目的は、世界的視野に立った被曝状況の調査・収集・解析を行い、国際的な放射線情報の発信基地となることにある。  主なテーマは以下である。(1)原爆被災に関する学術資料及び情報の収集と解析 (2)世界的な放射能汚染状況の調査 (3)放射線影響の国際共同研究と国際シンポジウムの開催 (4)放射線情報公開および放射線医療従事者の教育。  当センターは霞キャンパスの原爆放射能医学研究所(原医研)に附属している四階建ての建物である。  以下われわれの研究および業務について具体的に紹介してみる。


一. 原爆被災に関する学術文献資料収集

 一九六七年から原爆被災や社会問題関連の新聞資料の切り抜き・分類整理を新聞五紙(中国、朝日、毎日、読売、長崎)を対象に行っており、現在まで約十二万件の切り抜きがファイルされている。
 一方、原爆関連の国内外の書籍の収集も行っており、現在までに約五千点が保存されている。書籍は社会学的、文学的資料に加えて、米国からの返還資料の貴重なものも含まれている。これらは原爆文献および被爆問題年表データベースとしてコンピューター入力されている。これらはセンター一階にある書庫に保存されており、希望者は来館されれば見ることができる。


二. 原爆被爆者情報データベースの作製

写真1  広島原爆被爆者と推定被曝線量のデータベースAtomic Bomb Survivors in Hiroshima(ABS)を作成しており、現在までに約二十八万人の被爆者情報がコンピューター入力されている。
 この情報から、被爆者の名前住所等の基本情報、被爆地点、遮蔽物の有無、推定被曝線量、被爆後から現在に至るまでの居住地の移動、死亡日と死亡病名、家族情報(被爆二世も含む)などがわかる(写真一)。このような被爆者の包括的データベースは知る限りでは日本国内にはない。


三. 病理関係資料収集と解析

 原爆被爆者の剖検報告書約八千五百例、保有臓器標本約八千例と一部スライド標本がAFIPからの返還標本と共に、古いものは一九四五年から保存されている。
 臓器標本はセンターの四階に保存されている。標本のDNAの安定性に対する長期ホルマリン固定、パラフィン包埋の影響を報告しているので参照されたい(新田ら、広島大学博物館研究報告第二号、一九九六)。


四. 広島・長崎の原爆被曝資料とその物理学的解析

 広島、長崎の原爆により被曝した岩石、コンクリート、鉄、タイル、瓦、レンガ、土壌の資料を保存している。この資料より広島原爆の中性子線量とガンマ線量の推定を行っている。方法は、被曝した岩石などの内部に生じた放射能を測定し中性子線量を、熱蛍光測定によりガンマ線量を推定する。


五. チェルノブイリおよびセミパラチンスクの放射能汚染と住民の健康影響の調査

写真2  旧ソ連チェルノブイリ原発事故に関して、笹川記念保健協力財団の援助により、汚染地区住民の検診活動を行った。主な内容は(1)セシウム137体内量の測定 (2)甲状腺の検診 (3)血液の検査であり、現在約十五万人のデータがある。
 一方、土壌、レンガ等を持ち帰り放射線量の測定も行っている。また旧ソ連の核実験場であるセミパラチンスクには五十万人ともいわれる被曝者が存在しており、近郊住民の放射線被曝量と健康影響を明らかにすべく研究を進めている(写真二)。


六. 国際会議の開催

写真3  広島国際シンポジウム(Hiroshima International Symposium)と名付けた放射線被曝のシンポジウムを一九九五年から毎年夏に開催している(写真三)。
 各年のテーマは、一昨年は「セミパラチンスク近郊住民の放射線被曝とその問題点」で、昨年は「放射線による長期低線量被曝の人体影響」である。今年は「放射線の生物学的影響」であった。
 いずれも国内外の放射線研究の第一線の研究者により活発な発表と討論がなされ有意義な会議であった。望むらくは、この会議が専門的と敬遠されるのか、出席者が限られる傾向にあり、この記事を機により多くの人が参加されることを切望している。


七. その他

 前記に加えて、基礎的実験も行っており、放射線誘発甲状腺癌の実験動物の作製、生物照射用単一エネルギー中性子発生装置の応用、放射能汚染測定技術の開発などがある。
 以上、当センターの研究を述べてきたが、これらに興味のある若い研究者は大歓迎であるのでご連絡をいただきたい。



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