留学生の眼(61)
『夢』
文 写真・
金 辰
(Kin, Sin)
広々とした湖で泳ぎたい
私は水が大好きだ。もっと適切にいえば、泳ぐことが大好きだ。泳ぐようになったのが小学を卒業した年の夏だった。それ以来、毎年の六月から十月までほとんど毎日泳いでいる。私が住んでいる町は中国の北にあって、かなり寒いところで、六月の気温は一五度くらいしかなくて、泳げるのが精々二、三分ぐらいだ。泳げない日々は寂しくて、いつも湖に行って水温を確かめていた。
もちろんプールもあるが、湖に比べ狭すぎる。そんなところで気持ちよく泳げるはずがない。その時の私の夢はいつでも広々とした湖で泳ぐことだった。
モデル作りのオリンピックに出たい
私が中二から始めたことがプラモデル作りだ。主に戦艦模型を作っていた。骨格を組み立て、その上に〇・八ミリから一ミリくらいの薄い桐の板を貼り艦体を完成させ、そしてエンジンをつけ、その後艦上建物を作る。後は塗装である。そして最後はスピードの調整だ。たとえば四〇分の一のモデルであれは、スピードも本物の四〇分の一でないと駄目だ。一メートルくらいの戦 艦を完成するのに二人で一年くらいはかかる。
当時、私がプラモデル作りにあまりにもはまってしまって、学校でも先生の講義を聴きながら(?)プラモデルの小さな部品を加工していた。そのおかけで成績が学年二位から百位以下まで下がったこともあった。そして大学の先生である 両親に厳しい説教を受け、完成間近な大型戦艦モデルを自ら壊した。旧ソ連の戦艦だった。飛び散った戦艦部品を見て、涙がぽろぽろと流れ、親に恨みさえ覚えた。その頃の夢は戦艦モデルのオリンピックに出ることだった。
自分の病院を持ちたい
大学は歯学部だった。親に勧められて、歯学部に進学した。自分は海洋大学や工業大学に入りたかったけど。無理矢理に入れられたから遊んでやろうと、大学三年までほとんど勉強せず、麻雀とサッカーが日課だった。
そんな日々も、臨床実習の始まりで終わった。何しろ歯を削ったり、詰めたり、義歯を作ったりするのが、戦艦モデル作りと似た部分があるから。麻雀少年だった私が図書館で外国の雑誌を読むまでになった。そして、歯科領域における日本の先進技術や材料に目を見張った。そんな時に抱く夢は、日本に留学して新しい技術を身につけ、大学の親友と自分たちの歯科病院を持つことだった。
+640MB MO+3GB HD
日本に来て、研究生活を送りながらもう一つの趣味ができた。それがパソコンである。
最初に買ったのがマックのPower Bookだった。こんなに使いやすいパソコンなんて夢のようだと思ったが、だんだんマックOSの不安定さにいやけがさしWindowsにした。今度買ったのがPanasonicのLet′ Noteだ。サブノートとして最高ともいえよう。わずか一・五キロで、B5サイズながら一〇・四インチのTFT液晶である。キータッチもなかなかのもので、すばらしいサブノートだ。今の夢は640MBのMOドライブとノート型内蔵の3GBのハードディスクを買うことだ。私は欲張りかな?
* * *
私にはいろいろの夢がある。どれも私にとって大事な思い出がいっぱい詰まっている。ある夢を思い出すと、その時々のいろんなことが頭に浮かんでくる。私の友だち、そして彼らとの出来事が鮮明に蘇る。これからも新しい夢と出会うことを、どきどきしながら待っている。
プロフィール
◇一九六九年四月十五日中国吉林省長春市生まれ
◇一九八八〜一九九三年白求恩医科大学歯学部
◇一九九四〜一九九六年福山YMCA国際ビジネス専門学校日本語科
◇一九九六〜一九九七年広島大学歯学部歯科補綴学第二講座研究生
◇一九九七年〜広島大学歯学研究科博士課程在籍
広大フォーラム29期4号
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