医療分子探索施設は今
霞キャンパスの医学研究支援を果たす機器センター

文 写真 杉山 政則(Sugiyama, Masanori)
医学部医療分子探索施設事業委員長




設立経緯

 平成四年度、大学院最先端設備費として「医薬分子探索システム」が医学部に配分され、それに基づき広島大学医学系研究科に「医療分子探索施設」が設置されました。実質的には、平成五年二月から動き始めた本施設は、医学系研究科における研究・教育の推進に資することを目的としています。また、同時に関連領域のあらゆる研究機関へも広く開放し、その研究支援に寄与することも目指しています。
 本施設は、形式的には各種機器を一か所に集めただけのものです。専任の教官や技官など人員に対する予算はないことからしますと、正規の施設とは言えません。当然、機器を整備する予算は十分になく、新機器の購入補充の予算もありません。
 このような状況下で、すべての研究者に開かれた施設にしようという理念のもと、医学部や原爆放射能医学研究所だけではなく、歯学部を含めた霞キャンパスを構成する教官の中から運営委員および事業委員を募りました。そして、彼らのボランティア精神をもって英知を出し合い、これまで運営してきました。  したがって、各機器の使用に伴う整備費用は、原則的に受益者負担に頼らざるをえません。しかしながら、本施設を用いてこれまで得られた成果や業績はきわめて高いと言えます。


医療分子探索施設全景(入口より右側を望む)  


設 備

   霞キャンパス全体のアンケート調査を反映させて設置した機器として、医療分子分布解析部にバイオイメージアナライザーや自動細胞解析装置(フローサイトメーター)、医療分子設計部に分子グラフィックス(CACheおよびモルグラフのソフトウエアーならびにシリコングラフィックス社のUnixコンピューターから 構成されている)、医療分子合成部にペプチド自動シンセサイザーならびにDNA自動シンセサイザー、医療分子構造解析部にDNAシークエンサー、核磁気共鳴分光装置(400Mz NMR)、ペプチドシークエンサーが設置されています。その他、超遠心分離装置、カラーコピー機などもあります。さらに、本施設内には、おもに特殊なガラス器具を制作するための装置開発室があります。もちろん、利用者の憩いと情報交換の場を提供する休息コーナーも設けております。

自動細胞解析装置


運 営

   本施設の運営は、医療分子探索施設運営委員会および事業委員会が担当しています。運営委員会では、運営の基本方針と予算を審議します。
 また、事業委員会は、設備の管理と実際の使用に関する教育、要望や意見の調整、運営委員会で決定された方針の実現に向けて討議・活動しています。
 機器の管理・使用については、その機器に熟知し、かつ、使用頻度の高い教官に事業委員を依頼し、彼らの管理・指導のもとで行っています。そして、毎年、新規ユーザーの教育と拡大、および機器のホットな利用法の教育も兼ねて、各機器ごとに利用者講習会を開催しております。

核磁気共鳴分光装置


利用度と業績

   設置されているほとんどの機器は使用頻度がきわめて高く、利用者数も年々増加し、一か月当りの利用者は、今や、延べ一〇〇〇人を越えています。したがって、消耗度も激しく、例えば、フローサイトメーターについては、レーザー管を数回交換しました。
 また、本施設を利用して得られたデーターに基づいて執筆された学術論文には、ほとんどのユーザーにより本施設に対する謝辞が積極的に述べられています。


今後の課題と展望

   本施設が実際に稼働してからすでに四年を経過しました。そして、これまできわめて多くの教官・学生に使用され、彼らの研究活動支援のために役立ってきました。その意味では、本施設設置の初期の目的は完全に達成されたと言えましょう。
 しかしながら、科学の進歩はとどまるところを知らず、今やそれに見合うだけの研究設備のグレードアップが必要だと多くのユーザーから切望されています。
 各機器の整備と初心者への使用法の教育を担当している事業委員のボランティア活動も限界に近く、運営・事業委員会としては、毎年欠かさず「医療分子探索施設」の分子医療支援センター(仮称)への発展を念頭に、特別設備費の申請や専任教官・技官などの人員の配置を要求しています。しかし、残念ながら、いまだその要望は叶えられておりません。医学部でも研究科の重点化について討議され、その実現に向かって努力しております。
 そんな中、研究に対する貢献度のきわめて高い本施設「医療分子探索施設」を、重点化の核として整備・充実してゆきたいと考えております。


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