コラム

中国の大学事情あれこれ(2)
就職事情に見る地域的な差違



 我が国では、就職協定の廃止を機に就職問題が新たな局面を迎えている。また、本学においては、近年、就職方面の思わしくない実情を前に、いかに対応すべきかが全学的な検討課題となっている。いわゆる「出口問題」である。ただこの問題は、海の向こう側、中国でも改革開放政策推進下に、今や学生の悩みとして無視しがたいものと化しているようだ。
 すでに一九八八年には、市場原理導入を趣旨とする「高等教育機関の卒業生の職場配置制度に関する改革案」(国家教育委員会)が公布されており(大塚豊著『中国高等教育関係法規』)、先頃、梁忠義氏(中国・東北師範大学比較教育研究所長)も本学大学教育研究センターに来所の際報告されたように、卒業見込み者への就職指導は九○年代の改革の重点の一つとなってる。国家・機関を挙げて、就職問題に取り組みつつあることは明らかである。では、実情はどうか。
 上海地区を例にとれば、学生の就職状況は、「今年は比較的よかったが、近年、職にありつけない学生が少なくない」というのが現実で、いわゆる有名大学とそうでない大学との格差も厳然として存在するという。中国でもインターンシップ的な制度が認められるようだが、上海の場合、学生時代にアルバイトとして雇用していた者を優先的に採用するなど、企業の中には当該分野での就業経験の有無を問題にするところも少なくないとのことであった。
 重慶においても就職はやはり学生の重大関心事の一つである。かつて内陸部から上海や広州・深などの沿海地区への人口流入が問題視されたことは周知のとおりであり、四川省も例外ではなかった。今日とてそれへの願望が滅したわけではなく、例えば各高等教育機関は募集要項(Q&A欄)で「卒業生の就業」を取り上げ、「他の省市」「浙江・江蘇・福建・広東・北京等の各省市」での就業実績をあえて紹介するなど、学生側に配慮した自校宣伝にも余念がない。
 ただ大学側の認識を見る限り、問題への切迫感は上海の比ではない。確かに今回の調査結果のみで、当地の実状全体を云々することはできないが、少なくも訪問先では一様に「就職率は一〇〇%以上」と聞かされた。要するに求人数が卒業生数を上回っているというのである。ただし、就職先の職務内容・職場環境等が学生の志向性に合致するものか否かは別の問題であり、彼らをして就職後に思い切った行動を選択させることもありうる。「確かに就職後の転職もないわけでなく、少なくない」がこれである。当然ながら、「こうした卒業後の問題は基本的に大学側責任の範囲外であり、職探しは当人の責任となる」。従って、“就職問題が表面化するのは卒業時でなく転職後”、ここに今日の上海との差違が存在すると言ってよい。
 とは言え、この違いが将来にまで存続するとも言い切れない。直轄市となった重慶が今後一層の経済発展を遂げうることは容易に考えられることであり、今日の上海における就職事情が未来の重慶に訪れないとも限らない。学生諸氏の悩みはどこにおいても、尽きないと言うべきであろう。

(広島大学調査室 橋本 学)


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