教養的教育を実施して、その点検と改善 
文 写真・教養的教育委員会


一. 教養的教育の実施

 本年四月から、四年一貫 全学担当全学開放という新しい方針のもとで教養的教育が全学的に実施された。これは、本学が 最重要課題として長年取り組んでいる学部教育改革の第一歩である。その企画・立案には教養的教育委員会があたっているが、実施には、新しく設置された外国語教育研究センター及び情報教育研究センターと、総合科学部をはじめとする全学部の教官があたっている。
 新しい教養的教育は、教養的教育を一定の期間に特定の担当者に集中的に請け負わすという従来の一般教育とは全く異なり、教養的教育と専門的教育の有機的な統合を目指そうとする新しい試みである。それだけに、実施にともなう課題も生ずる。教養的教育委員会では、企画・立案−実施−点検・評価のプロセスを経ながら、改善実施していくこととしている。たびたびの調査はこのためのもので、ご協力に感謝するとともに、今後ともご理解とご協力をお願いする次第である。
 新しい教養的教育の実施にあたっては、新設された外国語教育研究センターと情報教育研究センターに総合科学部の定員を配分するという形で人的措置をとった。また予算措置についても、各学部に対して措置がなされている。
情報教育研究センター


二. 教養的教育の点検・評価

 夏休み直前に、教養ゼミ受講生全員と担当教官を対象に、(1)教養的教育の理念や教育目標は全教職員によって共有されているか (2)教育目標に見合うカリキュラム編成は十分実現されているか (3)教養的教育の意図や意味は学生にとって十分理解されているか、を基本的枠組みとした調査を実施した。調査結果に基づき、短期と長期の対応を考慮しながら、重要かつ実施可能なものから改善に着手していく。いずれ報告書にまとめて構成員に配布する予定である。
 調査によって、教養的教育改革の理念は過半数の教官にいまだ十分に共有されていないこと、教養ゼミは学生の評判は良好であった半面パッケージ別科目には教官同士の内容調整が不十分だとの不満が見られたこと、ガイダンス、手引き、カリキュラム編成などに改善の余地があることなどが判明した。
 (1)の理念の共有化には、改革関連情報が円滑に教職員へ流れる工夫が大切である。調査では、教養的教育改革に関する全学研修会(三月十・十一日開催)に参加した人の理念の共有度が高いことから、第二回研修会を開催する予定で準備を進めている(来年三月九日・十日を予定)。
 教養ゼミについての点検は、授業担当者の内容吟味を重視する視点から、その内容に関する調査を実施する予定である。それは、教養ゼミの意義は認めているものの、授業方法に迷いや不安を抱いている担当者に適切なヒントや指針を提供することになり、教官、学生、カリキュラム、授業方法を総合的に改善するためにも欠かせない。教養ゼミの成果を全構成員で共有することにもなる。
 パッケージ別科目については、後期分授業の調査と合わせて、長期的視点も含め、改善の方向を探ることにしている。


三. 平成十年度カリキュラムの改善点

 前・後期の学期はじめに行われた履修相談、履修届状況の解析、及び夏休み前に行われた調査に基づき、平成十年度のカリキュラムの編成にあたって以下の改善をする。
(1)ガイダンス及びガイドブック
 今年度のガイダンスは、パッケージ別科目や英語以外の外国語の選択希望届の関係で、入学式の前と後の二回に分けて行われた。その結果、説明内容に食い違いが生じ、混乱を招いた。
 平成十年度は、入学式前の四月六日(月)に、学部別に一括して行うこととしている。また全学研修会やガイダンスマニュアルなどによって、説明内容の統一と徹底を図るよう計画している。
 ガイドブックについては、内容自体が解りにくいという指摘に加えて、ガイドブックがパッケージ別科目、英語、英語以外の外国語と別々に作られていたため、繁雑で使いづらいという指摘があった。そのため平成十年度は、各種ガイドブックと履修の手引を一本化して、解りやすい総合的なガイドブックを作成することにしている。
(2)各授業科目に対する改善
【教養ゼミ】教養ゼミに対するアンケート調査によれば、学生のかなり高い評価に比べ、教官の評価はやや低い。この理由の一つは、教官の負担増や実施方法に対する戸惑いなどによるものと思われる。教育内容に関する調査をふまえ、授業のやり方などに関する適切なヒントや指針を提供する予定である。
【外国語科目】英語以外の外国語については、各外国語間で受講希望者数に不均衡があり、一部の外国語で少人数教育ができなくなっている。この状況を少しでも改善するため、一クラス当たりの受講生が多かったドイツ語、フランス語、スペイン語、中国語及び朝鮮語については開設コマ数を増加する。
【情報科目】情報科目については、・共通科目としての必修化の保証、・情報の受発信や処理に関する実習が不可欠、という条件をどのようにして満足させるかが課題である。この課題の解決には人的・物的な環境整備が必要であるがまだ改善には至っていない。しかし、新たに「情報活用演習」と「情報活用研究」と合わせて実習系科目四クラスの開設を予定しているため、講義系科目は今年度より若干のゆとりが見込まれる。
【総合科目】カリキュラム編成上、(1)開設科目数と受講者数が前期に集中し後期受講者数が激減すると予測されたこと (2)高学年次の学生を対象とした発展的総合科目展的総合科目が少ない、という課題があった。
 (1)に対しては、後期の受講者状況を見る限り、当初心配された激減はなく、ほぼ妥当なクラス人数になっている。しかし開設科目数の前・後期の不均衡は依然存在するので、引き続き検討すべき課題としている。(2)の発展的総合科目の開設については、新たに「実社会と法学」(法学部開設)が開設されるため、一歩前進と考えている。
【パッケージ別科目】パッケージ別科目に対する学生の評価はかなり厳しい。主な理由は、(1)他のパッケージの授業科目を選択しようと思っても選択できないこと (2)同一パッケージ内の授業科目間で関連性が見えないことであった。
 (1)はパッケージ別科目の理念や目標が学生に十分理解されていないことによる不満で、科目の選択の枠を広げることによって解決することではない。履修の手引やガイダンスを通じて、パッケージ別科目の理念や目標を学生が十分理解できるよう説明 することにしている。また、シラバスもパッケージ別科目の趣旨が理解されるように編集を工夫する。(2)の問題に対しては、キーワードの共有化によって科目間の関連性を図ったが、その考え方をさらに進め、各パッケージごとに統一した教科書を作成 するべく検討を始めている。
 また、全視角の授業科目が用意されるべき月曜日一コマ目に授業科目のない視角があるという時間割上の問題が指摘されている。このことは、この視角の授業科目を履修したい学生にとっては不利益を被ることになっているので、一部パッケージ別科目の見直しを行い早急に改善することにしている。
【個別科目】個別科目については、クラスサイズ(人数)に関する指摘があった。特に、一五〇人を超える授業科目(七科目)については、開設コマ数を増やす予定である。また、いわゆる基礎科目についても一部多人数クラスがあったが、これらについても開設コマ数の増加を図り、適正規模のクラス編成とする。その他の個別科目については、前・後期間の受講者数の平準化やクラスサイズの縮小化のための調整を図ることにしている。
外国語教育研究センター


四. 今後の課題

 教養的教育改革を軌道に乗せるためには、以下の三つの努力が引き続き必要である。第一は、教養的教育の理念・目標を多くの構成員が共有できるようなお一層の努力をすること。第二は、理念・目標を実現するためのカリキュラム編成に改善と工夫を続けること。そして第三は、学習者である学生に教養的教育カリキュラムの意義と教育目標を理解してもらうよう授業内容・方法の改善に格段の努力を払うことである。
 今後早急に手がけなければならない課題としては、(1)教養的教育の理念・目標についてのキャンペーン活動やオリエンテーション機能の充実 (2)教養的教育科目としての適切さの基準づくりとそれに基づく授業科目の整理 (3)学生評価及び授業モニター制などの導入による授業内容・授業方法・開設セメスター等についての工夫と改善 (4)新しい時代のコアカリキュラムとして新設したパッケージ別科目の内容の精選と履修方法についての改善 (5)専門的教育と深いつながりのある基礎科目及び実験系授業科目についての再検討 (6)高校教育及び入試制度と連携した補充教育の内容と方法についての検討 (7)情報科目及び外国語科目の充実 (8)非常勤講師及びティーチングアシスタントの委嘱実態調査と適正化の検討 (9)三キャンパス体制への抜本的対応などがあげられる。


五. 結びにかえて

 教養的教育の全学実施体制を押し進めるためには、教養的教育を学部教育(学士課程教育)の中にしっかりと位置づけ、専門的教育との有機的な統合を目指す必要がある。そのためには、全教官の教育負担の平準化の努力や全学で支えられる教養的教育についての新たな合意形成が不可欠である。また、将来の省令化を目指し外国語教育研究センター及び情報教育研究センターの充実と学習環境の整備には一層の力を注ぐ必要がある。
 設置基準の大綱化後、全国に先駆けて教養的教育の重要性を打ち出した本学の改革動向は、新しい大学づくりを模索する多くの大学のモデルとして注目されている。学生のための教育改革、新しい時代を切り拓く教育改革をめざし、決意を新たにし、努力を続けることが本学の責任であり、また誇りでもあることを自覚したい。

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