追悼



 上田博晤(うえだひろあき)教授のご逝去を悼む

 十月二十八日の早朝、私は上田博晤教授が亡くなられたとの電話を頂きました。この二月から病院に入院加療され、一日も早く回復され研究室に復帰なさる日を待っていた矢先のことです。最近では随分元気になられ、ご本人もこれで大学で再び研究ができると家族の方にも話しておられた由、うかがっておりました。このような時、思いがけずの出来事で本当に驚きました。
 先生は昭和三十九年三月広島大学理学部生物学科動物学専攻をご卒業後、昭和四十四年同大学理学部附属両生類研究施設の助手となられ、その後、昭和五十九年助教授、平成六年教授、平成七年施設長となられ、平成八年十二月に病に倒れられるまで、三十三年の長きにわたって研究活動に専念されました。
 先生は両生類を材料とする発生学、遺伝学ならびに進化学の研究に従事され、特にアジア大陸に分布するカエル類について広範な交雑実験を行い、多くの注目すべき成果を挙げられました。また、日本、台湾、韓国、中国、ヨーロッパ諸国に分布するカエル類の純粋種、雑種及び倍数体について、鳴き声を分析して、種、亜種、地方種族に特有な音声があることを明らかにし、それぞれの遺伝様式を解明して、鳴き声に基づく系統進化の過程を確立することに成功されました。さらに、先生は両生類研究施設に保存されている多数の特殊系統の維持に多大の貢献をされました。
 また、教育の分野においては、先生は深い学識と卓越した指導力をもって後進の指導にあたってこられました。学内においても、理学部内での各種委員を歴任され、多大なご尽力をされました。さらに、学外にあっては、建設省河川管理財団及び環境調査技術研究所からの研究助成により、両生類と河川環境の保存対策にご尽力されました。
 この十一月二十八日、両生類研究施設は創立三十周年記念式典を行う予定で準備を進めております。上田先生もこの日を楽しみにしておられました。私たちも先生とご一緒に記念式典を行えないことになり、残念でなりません。
 後には奥様とお二人のお嬢様が残されました。せめてもの安心は幸いお嬢様はお二人とも成人なされていることです。一日も早くご家族がこの悲しみから立ち直れるようお祈りいたします。
 生前の先生のご功績を讃え、誠実にみちあふれたお人柄を偲び、深く哀悼の意を表します。先生のご冥福を心からお祈りいたします。
両生類研究施設長 吉里勝利(よしざと・かつとし)



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