名誉教授 松本文夫(まつもとふみお)先生を悼む 広島大学名誉教授松本文夫先生は、平成九年十月二十九日深夜、東京都東久留米市で逝去されました。享年八十四歳。 先生は昭和十一年に東京帝国大学農学部水産学科をご卒業後、朝鮮総督府水産試験場に勤務されました。同十九年から兵役につかれ、終戦で復員後、三重水産専門学校教授、広島大学広島高等師範学校教授を経て二十六年同大学水畜産学部に着任され、三十三年には教授に昇任され、水産化学講座と後に水産食品製造学講座を担当されました。昭和五十二年四月停年によりご退官後、日本大学農獣医学部と比治山女子短期大学において六十三年三月まで教育研究に従事されました。 この間、本学にあっては評議員を二期務められる等、草創期の広島大学の発展のために尽くされました。また実学的教育を目指して設立された水畜産学部において製造加工実習施設等の充実に努めるとともに、急速に発展した食品産業の要請に応え、昭和四十一年の食品工業化学科創設に主要な役割を果たし、その後の学部発展の基礎を固められました。 先生は戦前、朝鮮総督府水産試験場でその地の水産業の育成・振興に多大な貢献をされました。戦後は福山においてアサクサノリの育成と環境要因、特に水流の影響に関する研究を実施し、生育に好適な条件を見出し、室内で実証するとともに現場試験を行い、養殖技術の改善と漁場の開発を図られました。その結果、瀬戸内海でのノリ養殖漁業の振興に貢献され、また後進の海藻類の化学と利用に関する研究の発展の礎を築かれました。水質汚濁問題にも取り組まれ、地域社会に貢献されました。先生は常に海や工場の現場に立ち、実践的な姿勢をもって研究・教育に当たられ、学生の信頼と敬愛を集められました。 四十余年の長きにわたり、水産化学、水産製造学の教師・研究者として、豊かな経験と学識をもって後進の育成に努め、多数の有為な人材を産業界に送り出されました。その長年の教育・研究の功績により、昭和六十一年には勲三等旭日中綬賞を授与されました。 ここに先生の足跡を偲び、謹んでご冥福をお祈りいたします。 生物生産学部食品科学講座 宮澤啓輔(みやざわ・けいすけ)
|