中国文化賞受賞に添えて  
文・ 吉田 典可(Yoshida, Noriyoshi)
広島大学名誉教授

 
 
 栄誉と喜びを皆様と共に 
 このたび思いがけなくも第五十四回中国文化賞を拝受いたしました。一九六九年学園紛争の最中に広島大学工学部に着任以来、今日まで二十八年間を広島で過ごしてきた私にとって、このたびの受賞は意義深く、また身に余る栄誉であるとありがたく受けとめています。
 これまで私は、人間の知的活動における対象での処理操作に必要な種々の論理的機能を電子素子から成る回路で実現し、それらの相互結合として所望の目的を達成できるよう、システムを構成するための学理の探求や技術の開発に取り組んできました。
 特に、超大規模集積回路(VLSI)のレイアウト(配置配線)設計に関する一連の研究成果をご評価いただいたことは、広島大学在職時に賜りました先達諸賢各位の温かいご理解と多大なご支援、ならびに同僚や後輩の皆様方の進取なご協力によるものと銘記し、深く感謝いたしております。
 受賞の喜びを皆様方にも分かち合っていただければ大変幸せに存じます。


 工学の成果を地域社会へ 
 顧みますと、広島大学の教育研究活動の充実向上に関連して取り組みましたいろいろのことが思い起こされます。
 工学研究科博士課程の新設、キャンパス統合移転第一陣としての工学部移転、情報工学専攻の増設、キャンパスネットワークシステムHINETの整備、集積化システム研究センター(現ナノデバイスシステム研究センター)の設置などとの係わりは、いずれも私自身の教育研究活動にきわめて大きな刺激と試練を与えてくれたものと言えます。
 実用の学と言われる工学の分野で、回路とシステムを対象とした思考方法や技法は、他の分野や局面でも組織編成やその運用などに役立て得ることをしばしば経験しました。
 半導体産業の「米」と言われる集積回路(IC)の回路設計の自動化に関する研究で、しのぎを削るほどの激しい開発競争の中で先導的な成果を挙げるには、産業界との連携や協同による研究開発が必須です。
 このことから国際水準での学術活動のほか、地域を機軸に広く世界中の産業界との係わりを大事にせざるを得ません。
 具体的には、これまで社団法人発明協会での知的所有権関係、財団法人中国技術振興センターや中国地域科学技術振興連絡会議での産・学・官連携による共同研究開発方策の検討、広島県産業科学技術研究所(仮称)の建設準備、中国・四国インターネット協議会での非営利目的の自主組織活動などに取り組んできたゆえんです。


 技術の温古知新 
 技術革新が急激な速さで展開される現代では、ときに古い技術は無用のように扱われる傾向があります。しかし現実には、原理と法則性の両面で革新的でない限り、どんな技術でも少なからず従前の基礎技術や基盤技術が何らかの係わりを持っています。
 新しい技術の展開では、それによる機能と在来技術による同類機能との両立が望まれるところでもあります。また、技術の普及拡大や技術移転の促進に配慮する意味から、世代を跨ぐ技術の伝承普遍にも努めなければなりません。


 むすびに代えて 
 幸いにも健康に不安なく過ごさせていただいていますので、これからも大学における教育研究と地域社会の進展にいささかでも寄与できるよう精進いたす所存です。なお一層のご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
 末筆ながら皆様方のご健勝と広島大学のますますのご発展をお祈りいたします。


広大フォーラム29期6号 目次に戻る