遺伝子実験施設は今  
文・写真 山下 一郎(Yamashita, Ichiro)   
遺伝子実験施設 教授

 本施設は、本学はもとより中四国地域の拠点として、遺伝子に関する基礎的・応用的研究の助長・促進と遺伝子実験技術の教育訓練及び安全教育を行うことを目的とした、学内共同利用施設です。
 最近、遺伝子解析に関する大型最新機器が数多く導入され、施設の充実がさらに進んでいます。
 
 遺伝子実験施設とは 
 広島大学では、昭和五十五年頃から組換えDNAに関する研究が開始され、昭和五十七年に工学部移転と共に「実験指針」に基づくP−3設備が完成し、組換えDNA実験に関する研究が飛躍的に増加しました。
 当施設は、平成元年(一九八九年)東広島キャンパスに施設建物が竣工され、同年五月より学内共同利用施設として供用を開始しました。この施設は、関西以西の西日本では最初の遺伝子に関する研究・教育のセンターです。これまで、毎年二百名近い登録者があり、延べ一五二四名が施設を利用して研究を展開してきました(本年度の学部別登録者状況を表1に示す)。

表1 平成9年度遺伝子実験施設利用登録者数
所属学部 職員

学生

その他 合計
学部 大学院 小計
遺伝子実験施設 3 3 15 18 1 22
総合学部 2 0 4 4 1 7
理学部 21 8 41 49 2 72
医学部 0 0 0 0 0 0
工学部 5 2 10 12 0 17
生物生産学部 11 9 26 35 0 46
原医研 2 0 1 1 0 3
合計 44 22 97 119 4 167

 来年で開所十年目を迎えるにあたり、多くの本学教職員、大学院生、学部生及び学外の研究者に支えられてきたことを心から感謝いたします。
 当施設では、組換えDNA実験を中心とする遺伝子操作の基本ならびに応用技術と安全管理に関する教育を行うため、毎年夏休み期間を利用して各一週間の日程で三回にわたって遺伝子操作技術研修会(基礎および高等技術コース)を開催しています。これまでに延べ六六三名の受講者を受け入れており、これは他大学施設に類をみない抜群の実績です(表2)。

表2 遺伝子操作技術研修会受講者数
基礎技術コース

年度

受講者人数

学内

学外

合計

昭和61年 10 0 10
  62 18 0 18
  63 29 0 29
平成元年 17 18 35
  2 26 10 36
  3 17 17 34
  4 21 15 36
  5 28 38 66
  6 20 40 60
  7 20 44 64
  8 16 46 62
  9 20 39 59

合計

242 267 509

高等技術コース

年度

受講者人数

学内

学外

合計

平成元年 12 0 12
  2 14 0 14
  3 9 0 9
  4 13 0 13
  5 12 12 24
  6 7 14 21
  7 11 11 22
  8 9 15 24
  9 7 8 15

合計

94 60 154

 受講生は本学教官、大学院生はもとより他大学・社会人(医者、技術者、民間研究所員など)の参加も多く、地域的には遠くは山形から沖縄まで広域の方々が参加しているため、毎回熱気あふれる研修会となっています。
 受講内容は、基礎技術コースでは、毎年初心者を対象として、組換えDNAの作成やプラスミドDNAの調製などをはじめとする基礎技術の習得に重点が置かれています。
 高等技術コースでは、毎年テーマを変えて全国から講師をお迎えして最新の技術を講習します。今年のテーマは、哺乳動物における遺伝子ノックアウト―遺伝子ノックアウトマウスの作製法でした。詳しくは、当施設ホームページ(本文末尾)をご覧ください。
 このほか、毎年一、二回公開講演会を開催し、内外の著名な講師による最新の研究成果と話題を提供しています。と話題を提供しています。また、年に数回施設セミナー(講演)や技術講習会を開催し、遺伝子研究のための情報や技術に関するコミュニケーションの場として利用していただいています。
 昨年度、新規研究設備の大幅な拡充がなされました(ホームページ参照)。主な導入機器として共焦点レーザー顕微鏡(写真1)、モレキュラーイメジャー(写真2)、セルソーター(写真3)など十点です。これにともない新設備ごとに説明会や操作技術講習会を行ったり、利用者委員会を通じて学内共同利用の普及と宣伝に努めました。
 施設利用者にとって、最新の大型解析機器を存分に研究に役立てることが可能となり、施設利用の機会がますます増加し、素晴らしい研究が展開することを期待しています。


(写真1)共焦点レーザー顕微鏡

(写真2)モレキュラーイメジャー

(写真3)セルソーター



 施設専任教官の研究例 
 当施設の教官は、工学研究科分子生命機能科学専攻(独立専攻)の協力講座として大学院生の教育に参加しています。現在、教官三名、大学院生十五名、学部生三名でにぎやかにやっています(写真4)。
 研究テーマは多様で、動物・植物・微生物を材料にして、真核生物の細胞分化における遺伝子発現の調節機構を解明することを目標にしています。
 具体的には、メダカにおける性決定機構の解明(写真5)、植物ホルモン(オーキシン)のシグナル伝達機構と根の分化の解明(写真6)、酵母の性分化と減数分裂の解明等です。興味のある方は、ぜひ施設に遊びに来てください。

(写真4)施設玄関前で,研究室一同

(写真5)メダカのオス(上)とメス

(写真6)トランスジェニック植物(右)と対照



 おわりに 
 本学における遺伝子関連研究は、組換えDNA実験申請数の推移をみても、この十年間で大幅に進展してきています。その多くは、当施設と関わって行われたものであり、このことは私どもにとっても励みとなっています。
 最近における組換えDNA実験に対する規制緩和と、本学関連学部において設備の整備が拡充している現状に、多くの皆様はある程度満足していると思います。
 しかし、ここ数年来、動物あるいは植物のトランスジェニック個体に関する研究の申請が多くなってきましたが、施設内に飼育・研究場所を確保できず、お断りしているのが現状です。近い将来、これらの研究者のニーズに答えられるかどうかが本学の遺伝子関連研究の発展を大きく左右すると思われますので、さらに全学の協力を仰いで、施設拡充に努力したいと考えています。
 当施設は学内共同利用施設として、研究しやすい環境の整備を願っています。施設利用に関するお問い合わせや要望などがありましたら、内線六二七三までお気軽にご連絡ください。

ホームページアドレス
 http://www.ipc.hiroshima-u.ac.jp/~cgswww/



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