フォトエッセイ(34) キャンパスの植物

文・写真 磯部 直樹  
(Isobe, Naoki) 
大学院国際協力研究科開発技術講座助手



彼 岸 花
Lycoris radiata Herb.
 

燃えるような赤い色で咲いている彼岸花

白く美しいシロバナマンシュシャゲ

彼岸花の葉。濃緑色で線形

  
 夏が終わり、朝晩の気温が寒くさえ感じられるようになる頃、あちらこちらで彼岸花が咲き乱れる。この花、読んで字の如く秋の彼岸前後に開花するからこの名がある。学名をLycoris radiata Herb.というが、Lycorisはギリシャ神話中の海の女神、Radiataは放射線状という意味で、原産地は中、東南アジアである。別名、曼珠沙華(マンジュシャゲ)ともいう。花が「先ず咲く」(マンズサク)ことからこの名が起こったということだが、後に仏教用語の「天井の花」「赤い花」という意味で曼珠沙華になったともいう。
 その他、九百近くもの方言があるらしい。例えば、毒花、赤痢花、舌曲がり、痺れ花、気触れ花、苦草、目腐り、毒百合、馬の舌曲がり、手腫れ草などは彼岸花が有毒植物であることを意味している。死人花、死んだ者の花、墓花、葬式花、仏花、幽霊花はともに自生地が墓地などに多いから。葉欠け花、葉抜け草、捨て子花などは、いずれも花の咲く時に葉がないことに由来している。また、花の形状から錨花、御輿みこし、天蓋花、テント花、嫁の簪(かんざし)、火事花、提灯花、赤花、野松明、線香花などがある。
 彼岸花は多年生草本で、地下に鱗茎を持って、一つの鱗茎から一〜四本の花茎を出す。葉は濃緑色の線形。日本の彼岸花は三倍体で、結実を見ることはないが、中国には結実するものがある。類品のシロバナマンジュシャゲは彼岸花とショウキズイセンの雑種と考えられているもので、花は白色でやや大きい。まれに栽培され ており、園芸上でリコリスと呼ばれている。
 彼岸花はリコリン(Lycorine)というアルカロイドを含む。全草に毒素を持つが、特に鱗茎に量を多く含んでいる。この球根が他の植物、ノビル、アサツキ、アマナなどのそれと混同され、事故に及ぶケースがあるから要注意である。
 また、花茎の汁はかぶれを引き起こす。去痰薬やアメーバの赤痢治療薬として一時使用されたことがあるらしく、解熱剤にもなるが、使用法を誤ると吐き気の他、下痢、よだれ、重傷になると中枢神経のマヒを起こし、時には死に至ることもある。過去、飢饉時の救荒食として利用されたが、やはり多くの中毒者及び死者を出したらしい。
 古くは土蔵の壁土に混ぜてネズミの侵入を防止したり、ふすまの糊にして虫を防いだ。墓地に多いのはネズミや獣による土葬の死体荒らし対策に、また畦や土手にはネズミやモグラの穴開け防止に植えたと見られている。かつては、葉がミカン輸送のパッキングにも使われた。使われた。
 彼岸花はその毒素によって我が身を守っているように思える。過伐採、過狩猟によってその数を激減させられた絶滅危惧種も、何らかの自己防衛手段を持っていなかったかと悔やまれる。さらに、地球は人間による環境破壊の自己防衛手段として、何を用いてくるのであろうか。そんなことを考えさせてくれる彼岸花である。


 
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