一人の退職者の弁

 内山 敬康(うちやま ひろやす) 総合科学部情報行動基礎研究講座

〈部局歴〉
  昭和37・4 (京都大学)
    52・4 総合科学部
 


 私は、新制中学の第一期生として民主主義に対する理想教育を受けました。大学院生の頃、日本の研究レベルを向上させ世界に誇れるものにする、という目標をもってしまいました。自分のことは二の次でした。
 しかし、この大それた目論見はもろくも挫折し、最後は他のことに目をつぶって、恥ずかしながら自分の研究だけを考える哀れな姿に堕してしまいました。中途放棄したことに対しては、次号に掲載予定の「提言」で、見果てぬ夢を述べさせていただきます。
 今、広島大学の主導で創設された総合科学部で大学を去ろうとしています。大学紛争や、文理大学を前身にもつ大学の格上げという背景があったとはいえ、そのようにして成立した学部の教授として、二十一年間を過ごせたことは私の誇りです。
 民主主義の理想も、大学の主体性も、思えば一瞬の光芒に過ぎませんでしたが、自立した人間としての誇りを失わないで長い年月を耐えることを可能にしてくれました。学部・大学院の創設に尽力された、今は亡き今堀誠二、岡本哲彦両学部長、並びに 荒谷孝昭先生に改めて敬意と感謝を表したいと思います。
 期待されたことの大きさに比べ、成し遂げたことのあまりの小ささに恥じ入るばかりです。
 最後になりましたが、私のわがままゆえにご迷惑をおかけした先輩や同僚の先生方に、お詫びとお礼を申し上げたいと存じます。





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