父の一言を守って

 渡辺 敏江(わたなべ としえ) 附属学校部皆実附属学校係

〈部局歴〉
 昭和34・4 教育学部東雲分校
    42・4 教育学部
    54・4 歯学部
    56・6 附属図書館
  平成3・10 学校教育学部
    6・4 附属学校部
 


 「花発けば風雨多く人生別離足る」という言葉がありますが、昭和三十四年に附属東雲小学校へ奉職して以来、三十九年間があっという間に過ぎ、定年という別離の時を迎えることになりました。
 その間悲喜こもごもの出来事に遇いましたが、今ひとたび振り返ってみますと、なにもかもが楽しい思い出となって脳裏に浮かんでまいります。
 児童とともに参加した遠足での出来事。カリキュラムや将来の進路について、悩み相談に来た学生との卒業後の再会、附属小・中・高等学校で生徒と交わした楽しい会話、高校生の修学旅行に随行した時の生徒との体験。どれ一つをとっても楽しい思い出となりました。
 私が広島大学に奉職する際、今は亡き父が「鏡明らかなれば則ち塵垢止まらず」という荘子の言葉を引用し、私に一生忘れないようにと言って励ましてくれました。
 父が言いたかったことは切磋琢磨し礼節を保てば、そこには汚い考えは宿らないという教えだったのではないかと思います。  私はその言葉を常に心に抱き、日常の業務に精励してまいりました。そのお陰か今では、私を育んでくれた広島大学には仕事を遣り遂げたという満足感とそれに伴う郷愁こそあれ、何か遣り残しているという後ろめたさや後悔の念はなく、清々しい気持ちで校門を去って行くことができます。
 これもひとえに、私を支えて下さった先輩諸氏や後輩の方々の温かい思い遣りとご援助の賜物と心から感謝しております。
 最後に広島大学で勤務される皆様方のご健康とご発展を祈念いたしまして、退官のご挨拶といたします。



平成9年11月,柳井カントリーで(筆者前列中央)



広大フォーラム29期6号 目次に戻る