文学部


場を得る

文学部長 向山 宏



 人の価値はその人固有のものであって、時と場所によって変ることはない、というのが常識であろう。しかし、社会の中での個人の役割と評価は、常に相対的な比較の中で移ろい動く。これが浮世である。
 同じ人がある集団ではリーダーであり、別の集団ではフォロアーになる。これはその場の事情で決まり、どんな人々がいて何をしているかによる。幼稚園では体格のよい元気な子が、学校では勉強のできる子が、社会では社交的な人物が、というふうに。
 こうしてみると、総合的な能力の高い同じ人物が常にリーダーでありそうにみえながら、実際には必ずしもそうではない。第二次世界大戦のビルマ戦線で戦闘、退却、逃亡、投降、捕虜生活、帰国に至る幾つもの場面で同じボスが二度登場したことがない、というのが会田雄次先生の名著の主張であった。卒業生諸君、居心地のよい幸せな場と役割を、根気よく見つけだして欲しいものである。

 



旅の羅針盤

文学研究科博士課程前期地理学専攻 梅田 克樹



 六年前の春、本学を受験した私は、とりあえず地理学研究を志望していた。しかし、当時の私の学問的関心は、実にあやふやなものであった。そのため、自分が進むべき道は何なのか、研究活動を続けることが最も有意義な選択なのか、入学後に随分と悩んだものである。
 そんな時、私はよく旅をした。自分の力だけを頼りに、未知の大地をひた走った。新鮮な感動の連続が、私を襲い続けた。 しかし、旅を重ねるにつれて、たくさんの人々に支えられて旅していることに、少しづつ気付くようになった。それは、疲れた私を励ましてくれるおばちゃんたちであり、共に酒を酌み交わした同宿の輩達であった。
 私は今、こうした旅の体験を、研究活動に重ね合わせている。新境地を切り拓く達成感は、一次の辛さや苦しさを遥かに超越するものと確信している。また、それは諸先生方・先輩方や学友たちに支えられていることを銘記し、感謝を忘れないようにしたい。
 これこそが、広島大学での六年間に見つけた、私の旅の羅針盤である。


▲ 研究室の仲間と
 

 



四年間で判ったこと

文学部倫理学専攻 春日かおる



 西条に四年間住んで最も詳しくなったことは、ケーキ屋についてであろう。文学部に通う私は、四年生になるとそれほど大学へ行く必要がなかったので、この一年は学食へ行くよりケーキ屋へ通った回数の方が多いような気さえするし、ケーキを食べたい一心でケーキ屋ばかりでバイトをしていた。
 この経験から、「どうせ太るならとってもおいしいケーキを食べて太りたい」という場合にお勧めの店がある。ノエルである。ここのケーキは美しく、種類も多く優等生的であり、私のケーキ屋通いのきっかけとなった。私はこの店に売れ残りのケーキ目当てでバイトに入ったのだが、一個もくれなかったのでがっかりして一日でやめてしまった。
 結局、西条では三件のケーキ屋でバイトをしたが、残ったケーキをくれる店は一件もなかったという結論になる。四年間のケーキ屋通いで判ったことはそれだけだが、私は大学院への進学が決まっているため、あと二年間はケーキについてのさらなる追求と、今度こそは研究に励もうと考えている……とつけくわえておこう。

▲愛する猫のゆきとケーキの箱とともに
 
 
広大フォーラム29期7号 目次に戻る