![]() さて、皆さんの在学しておられた期間は、日本経済の大きな変動、変化の時代でした。かつてアジアの奇跡と呼ばれた日本経済の繁栄は、バブル期の無責任で放漫な経済政策と金融の危機管理の甘さにより、大証券会社や都市銀行等の破綻など、金融システムのほころびを惹起し、今日大きな社会不安の一つにもなってまいり ました。 また、直接皆さんに関係のある就職協定の撤廃は、学生諸君にとっても大きな不安感を抱かせました。かつて教職系の大学といわれた我が広島大学にとっても、少子化傾向がはっきりあらわれたこのたび、三年間に五千人の教員養成系の学生の削減という政府案も卒業生の大きな不安の種となっております。 このように社会全体が負の傾向の中、我が広島大学は新キャンパスに続々と新校舎が建ち並び、来年度から独立研究科先端物質科学研究科が新設されます。この研究科は大学院のいわゆる「重点化」によるもので、本研究科の設置により、我が大学は重点化が始まり大学院大学への道を切り開いたのであります。これで、いよいよ日本を代表する大学、世界に情報を発信する大学としての準備、基盤が着々と出来上ってまいりました。 今回、卒業される皆さんの中には、すぐに社会に出られて自分の力を試される人たち、今しばらく大学院研究科においてさらに学問技術を深化されようとする人たち、さらには、大学院を修了される方々でありますが、どうか広島大学で学んだ多くの事柄をもとに、専門家として、あるいは高度な専門職業人・研究者として大きく社会にはばたき貢献していただきたいと思います。 人生いかなる時代にあっても、自らの力で切り開いて行かねばならないのです。 今の社会はボーダーレス、不透明、グローバルな時代といわれていますだけに、今までの日本のように小さく殻にとじこもった生活状態では、やがて国際社会から孤立するばかりであります。 日本の戦後は哲学を捨てることにより発展したともいえます。これまではどのような体制にも自らあわせて入りこむことで発展してまいりました。しかし、世界の国からも信頼されるためには、自ら信ずる所、いわゆる哲学をもってはじめて信頼されるのであります。 哲学は、きわめて困難な状況、大変動の危機的時代に求められ、その状況を突破、克服します。皆さんも一人ひとりが自ら信ずるもの、自ら律するもの、すなわち自らの哲学を持つことが、これからの社会を乗り切るために大切になります。 すでに社会は学歴を問うのではなく、個人の質を必要としてきています。今まではまだ何々大学卒という個人のキャリアが問題とされていましたが、今や十八歳人口の五〇%が大学に入る時代であります。大学は皆さんのキャリアにはなりますが、それ以上に皆さんが、が、これからどう生きるかが問われ、また道が開かれる時代であります。 バブル経済期には質より量、内容より規模が問われていましたが、もう拡大経済は終わりました。これからは組織ではなく最小単位の個人であり、個人の成熟化が求められています。すなわち、個人が哲学を志して自らに問いかけ、目標に対し情熱を持って日々精進する心を持ち続ける。すなわち継続することが物事を成就する人生のこつである、と私は思うのであります。 こうして一人ひとりが志を高くもち、自らを律し、精神的な大人としての個人となって、日本、世界、さらに地球へと未来に心をかたむけられた時、二十一世紀はより豊かで、地球の存続繁栄ということに目が向けられて来るものと思います。 世紀末といわれる現在、我々はこの地球に対して、恩恵をこうむるだけのものでなく、次の世紀に地球がより豊かであるための仕掛けと種をまく人間でなければならないと思います。皆さんの入学時に申し上げましたように、個人が大きな地球愛をもつことこそ、次の二十一世紀を大きくはばたける人間であると私は信じています。 もうすぐ二十一世紀です。二十一世紀の担い手の皆さん、皆さんの時代が始まっています。自らの哲学を持ち、自ら律して、地球愛をもって敢然と生きて下さい。 おめでとうございます。 |