歯学部附属歯科技工士学校は今  
二十一世紀の口腔ケアーを支援するチーム歯科医療の一員をめざして
中国・四国・九州地区唯一の国立の歯科技工士学校

文・写真 妹尾 輝明(Seo, Teruaki)   
歯学部附属歯科技工士学校教務主任

 本校は昭和四十七年に、中国、四国及び九州地区における唯一の文部大臣指定の国立歯科技工士学校として創設された。
 本校の母体である歯学部は昭和四十年に創設されており、その当初より理想的な歯科医療を遂行するには歯科医師を養成するだけでなく、優秀なコ・デンタルスタッフを養成することが肝要であるとの考えから、歯学部の附属教育施設として設置された。また、昭和五十一年には歯科衛生士学校が設置された。
 歯科技工士は歯科医師の依頼により、義歯、歯冠修復物及び矯正装置等を作製することを業とする歯科医療の重要な一部門を担う歯科医療技術者である。現在、わが国は高齢社会を迎え、とりわけ義歯の需要が増大する中で、歯科医療の進歩ともあいまって、その一翼を担う歯科技工士に対する社会の期待はますます強くなってきた。
 本校は、歯科技工士の資格を得るために必要な一般教養並びに専門知識と技術を習得させ、心身ともに健康で優秀な人材を育成することにより、歯科医療並びにこれに関連した社会福祉に寄与することを目的としている。
  本校の入学資格は高等学校卒業(卒業見込みを含む)以上の学歴を有する者で、男女・年齢は問わない。入学定員は二十名、修業年限は二年(昼間部のみ)である。
 卒業者には、歯科技工士国家試験の受験資格と「専門士(医療専門課程)」の称号が付与される。

 
 【教育方針及び特色】 
 本校の教育方針は、「歯科技工士は、技能中心ではなく医療従事者としての共通基盤に立脚した幅広い知識と豊かな人間性を備えた専門職でなければならない」という考えに基づいている。
 したがって、指定規則の科目以外に歯科医療全般の総合教育に力点を置きながら、関連臨床歯学、基礎歯科医学及び薬剤部、看護部、歯科衛生士学校などコ・デンタルスタッフによる概論のほか、学外講師として、歯科医師会、歯科技工士会、歯科技工所経営者、歯科器材メーカーなどの方々を招き、それぞれの立場で最先端技術、歯科界の動向、歯科技工所経営など歯科界の現状に即した授業科目を設定している。
 さらに本校の教育の特色として、一年生の基礎課程が終了して、歯科技工実習(臨床実習)に入る前に、歯学部附属病院の全診療科の臨床見学実習を行っている。さらに二年生では選択必修科目として、歯科技工は科学的根拠に立脚した技術であるとの認識と創造的思考力を身につけさせるために課題研究を課している。また、学部でもまだ実施されていない情報処理教育を行い、実社会の情報処理能力の育成に努めている。



 【所属職員・施設】 
 スタッフとしては、校長、三名の専任講師並びに事務補佐員がその任にあたっている。  校長は本学の歯学部教授が併任することになっており、平成九年四月からは八代目校長として丹根一夫教授(歯科矯正学講座)がその職にある。
 専任講師は妹尾輝明(教務主任)、志賀均、田嶋英明の三名で、事務補佐員として久本喜久子(歯科衛生士学校と併任)一名である。その他非常勤講師として歯学部及び附属病院の教官、附属学校の教諭、学外講師など数十名が教育に携わり、事務は歯学部総務課がバックアップしている。
 校舎は、創設当初は霞キャンパスにある医学部旧研究棟(赤煉瓦の旧兵舎庫)を内部改装したものであったが、昭和五十一年、歯学部附属病院の増設工事とともに、歯学部本館に直結した新校舎(B棟五階)が完成し、施設、教授陣ともに充実され現在に至っている。

歯学部及び同附属病院(A棟).歯科技工士学校は,この建物の裏側に直結して設置さている(B棟5階)

授業風景(講義)



 【学生生活及び就職状況】 
 学生は、主に広島県内を中心に中・四国、九州地区から入学しているが、近年女子学生の進出がめざましく過半数を占めるようになってきた。
 入学後直ちに専門科目の授業が行われるため、学生は若干の戸惑いを感じているが、学生数が少なく、入学時から家族的な雰囲気で明るく和気あいあいと過ごしている。カリキュラムの中で実習が多く時間的余裕が少ないため、クラブ活動は難しいが、授業に追われながらもレクリェーションとして新入生歓迎コンパ、霞地区全体の七夕祭、夏のキャンプ、秋の霞祭、クリスマスパーティーなど、みんなで協力しあって活動している。  本校は平成九年四月現在で、四七三(うち女性二二九)名の卒業生を社会に輩出している。
 その就職先は平成九年四月現在で病院三十一(三)名、歯科医院七十七(三十七)名。歯科技工所勤務一一〇(四十三)名・自営五十五(四)名、歯科器材メーカー七(二)名、学校関係二(一)名、その他一九一(一三九)名であるが、歯科技工所を開設している者が全体の一割を数えるようになり、その多くは西日本地域において歯科技工士として歯科医療に多大な貢献をしている(かっこ内数は女性を示す)。

授業風景(実習のデモンストレーション)

授業風景(実習)

学生用パソコンを2台設置 情報処理及び課題研究の授業で活用している。

表面粗さを測定しているところ(学生の課題研究)



 【今後の展望】 
 近年、歯科医療の進歩、発展に伴い、歯科技工士として学ぶべき専門の知識と技術は余りにも多く、現行の専修学校二年課程では、時間的にも内容的にも不十分で技術偏重の教育になっている。で技術偏重の教育になっている。
 毎年、全国の国立大学歯学部附属学校長・教務主任会議において、歯科技工士教育の改善について検討を重ねてきており、さらに高度な教育機関への昇格について関連省庁に理解を求めている。このことにより、ますます高度化、多様化するチーム歯科医療の一員として即応できる歯科技工士を養成し、医療従事者としての一般教養、基礎医学、臨床歯学など総合的なカリキュラムの充実によって、専門の教育者、研究者、管理者の育成が可能と考えられる。



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