自著を語る

『教育ママのすすめ−中学生をもつお母さんへ−』
著者/福島幸治
 A6判,203ページ)1,300円
  1996年/創栄出版
 

文・ 福島 幸治


「教育ママ」とは

 現代は、高学歴社会、少子化の時代とも言われる。その中にあって、教育熱心な保護者は増加の傾向にあり、教師に対する期待には大きいものがある。また、大学の附属学校の使命は、教育研究、教育実習であるが、それを果たすのに欠かすことのできないのが、保護者の理解であり、協力である。
 本書はそれらの保護者を対象として、中学生の教育を論じたものである。
 さて、「教育ママのすすめ」というタイトルを見て、奇異に感じられる方も多いかもしれない。「教育ママ」という言葉には、何かしら良くないイメージがつきまとう。子どもに勉強ばかりさせ他のことはおかまいなし、という母親像が思い浮かぶ。
 しかし、著者の考える母親像はそうではない。「教育ママ」とは、言わば「賢母」のことである。子どもの現在、未来を見据え、より良い教育環境を整え、教育実践をしていく母親である。また、母親は、子どもの将来の自己実現を支える重要な存在でもある。


生徒の実態をもとに

 小学生時代の子どもは、親の言うことは比較的素直に聞く。また、高校生ともなれば、精神的に自立し、親からは独立した存在となる。その成長過程にあって、難しいのが中学生である。当然、保護者の戸惑いも多い。
 中学校の三年間は短い。その三年間を有意義なものにするためには、各学年における生徒の実態を把握する必要がある。
 一年生では、中学校生活に目新しさを感じ、何事にも興味をもつ。二年生になると、学校生活にも慣れ、勉強にもクラブにも熱中する。ただ、中には集中力を失い、さまざまな問題を起こすこともある。三年生ともなると、学校の中心として活躍する場面も多い。そして、自分自身の進路について考えを深める時期ともなる。家庭教育においても、それらのことをもとに考える必要がある。
 今、学校教育においては、「いじめ」「不登校」などの問題が山積している。当然、保護者の関心も高い。ただ、日常の保護者の関心はそれだけにはとどまらない。学校での保護者集会や個人面談では、成績のこと、家庭学習、塾、家庭教師等の話題が出てくる。また、家庭学習といっても、一体何をどのように勉強すれば良いのか等、学習内容、学習方法のあり方についても保護者から質問を受ける。
 本書はこれらのことについて、生徒の実態をもとに具体例をあげながら、保護者と共に考えようとしたものである。


執筆を通して

 本書は、四章で構成されている。「一章 中学校生活と受験」では、中学校三年間を見通した教育の重要性と受験との関係を述べた。「二章 効果的学 習のあり方」では、主に家庭学習における内容、方法を述べた。「三章 お母さんとしての姿勢」では、一章、二章を踏まえて、保護者として子どもとどう接するべきか考えた。「四章 教師と教育」では、著者自身の教育観を語らせてもらった。
 執筆に当たり、当初は少しでも保護者の役に立てればという思いが強かった。日頃の学校教育、家庭教育のあるべき姿を求めようとした。
 しかし、執筆を進めるうちに考え方が徐々に変わってきた。少なくともこの本は、多くの生徒とその保護者、特に母親との出会いなしには書くことはできなかった。著者が教師生活を始めて、はや二十年が過ぎた。その間に出会った母親は、数百人にのぼるであろう。それら多くの母親と話す中で、共に教育のあるべき姿について認識を深めてきたのである。
 このように考えると、本書は著者一人が書いたものではなく、保護者の皆様方と書いた共著とも言えよう。


読者の反響から

 出版に際しては、中学生をもつ保護者を読者として考えていた。中学一、二年生の保護者の方からは、「大変わかりやすい」「参考になった」「日頃悩 んでいたことが解決した」等の評価をいただいた。三年生の保護者からは、「もっと早めに読んでおけばよかった」との声が寄せられた。
 しかし、読者層は中学生の保護者にとどまらず、小学生の保護者にも拡がった。これから中学生になる子どもをもつ保護者にとっても、本書への関心が高いものと思われる。
 小中学生をもつ保護者の方には、ぜひご一読いただきたい。



プロフィール

(ふくしま・こうじ)
◇一九五四年 広島県生まれ
◇一九七七年 広島大学卒業
◇一九九四年 広島大学大学院学校教育研究科修了
◇所属 =広島大学附属東雲中学校



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