語って 去りますか? 教育学部長 利島 保
卒業式と修了式は、それぞれの最終学歴のイニシエーションである。そのイニシエーションを迎えた今、あなた方にとって、これまで過ごしてきたモラトリアムが、これまでの自己にどのような意味をもたらし、これからの人生にどのような糧になるかを考える最後のチャンスではないか、と私自身思っている。 しかし、多くの人が、このイニシエーションの喧騒の中で、今の自分のアイデンティティに対し、うわべだけの感謝を表わすのみで、大学に恨み言の一つを言うでもなく、あわただしく去っていくのを、私はむなしく見送ってきたような気がする。 多分、優しさを旨とする今の若者の一人として、あなた方が一人になったとき、誰も傷つけることなく、陰でそっと恨み言、後悔、そして感謝を大学に言うのであろう。ただ、それを誰も聞けなかったことは、あなたが大学で創ったアイデンティティを、これからの大学の在り方や後輩たちの生き方に生かせないままなのは、返す返すももったいない気がする。 イニシエーションのステージから降りようとしているあなた方の後姿を見つめながら、ステージから降りた後でもいい、あなたが得た大学でのアイデンティティを大学や後輩に語ることを躊躇しないでほしい、と囁ささやきたい気に駆られるのである。 |
そして卒業98 |