教育学部


大学で創ったアイデンティティを
語って
去りますか?

教育学部長 利島 保



 卒業式と修了式は、それぞれの最終学歴のイニシエーションである。そのイニシエーションを迎えた今、あなた方にとって、これまで過ごしてきたモラトリアムが、これまでの自己にどのような意味をもたらし、これからの人生にどのような糧になるかを考える最後のチャンスではないか、と私自身思っている。
 しかし、多くの人が、このイニシエーションの喧騒の中で、今の自分のアイデンティティに対し、うわべだけの感謝を表わすのみで、大学に恨み言の一つを言うでもなく、あわただしく去っていくのを、私はむなしく見送ってきたような気がする。
 多分、優しさを旨とする今の若者の一人として、あなた方が一人になったとき、誰も傷つけることなく、陰でそっと恨み言、後悔、そして感謝を大学に言うのであろう。ただ、それを誰も聞けなかったことは、あなたが大学で創ったアイデンティティを、これからの大学の在り方や後輩たちの生き方に生かせないままなのは、返す返すももったいない気がする。
 イニシエーションのステージから降りようとしているあなた方の後姿を見つめながら、ステージから降りた後でもいい、あなたが得た大学でのアイデンティティを大学や後輩に語ることを躊躇しないでほしい、と囁ささやきたい気に駆られるのである。



 




そして卒業98

 

好きなようにせえ

●初めて西条にやって来たのは、入学試験の時でした。雪が降る中の受験で、予想外の寒さとのどかな風景に、不安とショックを感じたことを覚えています。今年も西条の冬が私たちを困らせていますが、この四回目 の冬の寒さがゆるむ頃には、もう卒業です。(中上 亜樹)
「好きなようにせえ」と言って、できの悪いひとり息子を大学院にまで進学させてくれた両親に支えられて「小さな研究者」でいられることを、今さらながら実感している。(影山 和也)
●現実は部活動が一日の中心となり、自分が期待していた学生生活は大幅にゆがんでしまった。しかし、私は部活動を通して一日一日を有意義に過ごすことができたことにとても満足している。(寒川 博貴)
●広島での四年間、私にとって大切な節目がいくつかあったと思います。「これからもずっと」と思う友人も仲間も、いつの間にかできました。(石原由佳子)


今の私

●私にとって四年間の学生生活は迷いの連続でした。まわり道をし、時々後戻りもして、ほんの少し前進してここにいる、という感じです。(森田 愛子)
●広島で開催されたアジア大会、国民体育大会のボランティアに参加できたこと等いろいろなことにチャレンジできたことは、自分にとってとてもプラスになったと思う。(寒川 博貴)
●今、修了を間近に控えて思うのは、「この二年間でちょっとは成長したのかな」ということです。(安部 博貴)
●今では自分を誇りに思えるし、大きな自信となりました。(山本かほり)


ほんのかけら

●二年間分のゼミの発表レジュメを整理したファイルをめくると、その時々の出来事が思い出され、まるでアルバムのようです。(安部 博貴)
●多種多様な先生方の考え方や研究内容などに触れ、自分の専門分野の基礎ができた。(堀田 清美)
●週に三日は徹夜というのがあたり前で、研究の厳しさを思い知らされる日々であった。時には、なぜ自分はここに居るのか、道を間違えたのではないか、と自問自答することもあった。(真木 昭久)
●この二年間で、議論を通して自己主張できるように成長できたことは非常に嬉しい。(高橋 功)
●「教える」ことの楽しさに気づいたことが四年間で最大の収穫です。(中上 亜樹)
●自分にはたくさんの知らないことがあって、自分の知っていることはほんのかけらのようなものであると知った。自分はこれからも常々学習者であるということを確認した。(安達 俊明)

春から

●四年になってからは教採の勉強のためにせっせと図書館に通った。怠け者の私にしてはよく勉強したし、自分なりに満足していたのに、いざ蓋をあけてみると、なんと採用がゼロだった。こうして私の夢はあえなく来年以降に持ち越しとなった。(大田黒園加)
●今日の社会は個性が重要視されています。この大学生活において得た経験を活かし、更に新しい自分を発見しながら活躍していきたいと思います。(杉原恵美子)
●院での二年間が、教育現場に役立つはずだと確信している今日このごろです。(堀田 清美)
●将来や仕事に関する不安はありますが、今の自分はけっこう好きです。私は、この「ながいながい夏休み」といわれる大学生活の思い出を胸に、春から教師として頑張っていきたいと思います。(石原由佳子)


広大フォーラム29期7号 目次に戻る