歯学部


社会への使命

歯学部長 長坂 信夫

 諸君は六年間歯学部の課程を修得しめでたく卒業されます。心からお祝い申し上げます。
 しかし、歯科医学の道は遠く一生涯終わるものではありません。このたびの卒業は、学業の一つの段階を獲得したに過ぎないのであります。
 諸君たちは今後それぞれの分野において、社会人として旅立つ一歩の能力が与えられたものであります。だから、自ら自分の学力と人間性を深め、自己完成してゆく努力と研鑽に努めなければなりません。そして、責任ある職務であるため、実社会に対して責任を果たす使命があることを自覚することです。それを社会も望んでいるのです。
 また、諸君たちは日進月歩している歯科医学の発展と、目まぐるしい世相の激しい移り変わりの流れに巻き込まれないよう、時の流れをよく見定め、自主性を堅持し、職業を通じて人類文化の維持高揚に尽くすことを忘れてはならないことです。そして、人の気持ちと悩みのわかる歯科医師及び研究者になって欲しいと願うものであります。
 最後に、広島大学歯学部の卒業生であることに誇りを持ち、母校の名誉を傷つけないよう頑張ってもらいたい。そして、諸君たちの健康と成功を祈る。


 



走りつづけた日々

歯学部六年 川田 芳樹

 「早いもので…」よく耳にする言葉である。ありきたりの表現法であるが、私は自らの学生生活をあえて「早いものであった」と言い切りたい。
 六年間といえばなんとも長い歳月である。しかし、与えられた時間をいかに過ごすか、何を学びどんな人と出会うか、それは人それぞれ大きく異なることは言うまでもない。私は幸いなことに、六年前大学入学と同時に拡げた一枚の白い心の画用紙に一日も休むことなく思い出を描くことができた。もちろん辛く苦しい灰色の時もあった。しかしそんな時、いつも私を支えてくれたのは、先生方、先輩方、そして何よりも友人たちであった。彼らと出会い、共に語らい、酒を酌み交わす中で私は、明るい色を心に描きつづけることができたのである。
 日々、目に映る景色はいつも新鮮で、学ぶことの面白さ、そして難しさを知り、自分の存在を確認できたこの六年間はどうして長いものであろうか。私には短すぎるぐらいであった。このように充実した時間を与えてくださった人々に私は改めて感謝したいと思う。
 私をはじめ共に過ごした友人たちはこの春、歯科医師として社会に出ることとなる。私たちはそれぞれの道を歩き始めるのだ。どんなに時が過ぎても大学時代の思い出はみなが一生持ち続けてゆく、それぞれ思いはさまざまであろう。しかし少なくとも私にはかけがえのない宝物となった。
 卒業と同時に「大学生活」というタイトルの作品は完成し、私は筆を置く、そしてまた歯科医師として筆をとり、歯科医師として筆をとり、白い心の画用紙に描き始めるだろう。今度は、もっと多くの人々に幸せと健康を与えることができた喜びに満ちた作品となるように。そしていつの日かこの作品が、私を育ててくれたすべての方々への恩返しとなるように。

診療室で同級生や看護婦さんと(筆者左端)
 


 



長い学生生活の終わりに

歯学研究科博士課程 脇田 一慶

 広島大学歯学部の大学院に入学して三年、学部での六年間を合わせると通算九年間広島大学に在籍したことになります。歯学部での六年間は、歯科医師となるための知識の習得や技術の鍛錬に追われ、実際ハードスケジュールであるにもかかわらず、卒業して歯学士の称号が与えられても、その卒業論文もなければ、雑誌の論文すら読めないのが実状です(最近は改善されているそうです)。
 そこで三年前、研究の「いろは」を学ぶため大学院に入学し、口腔解剖学第二講座の門を叩きました。当講座は教授自らが手本を示し、直接指導に当たるという熱の入れ様なため、少数精鋭でかつアットホームな雰囲気をもった研究室でした。研究に関しては全くの素人であった私がこんなにも早く博士号が取得できたのは、このような面倒見の良い教授と、すばらしいスタッフの人たちに支えられてきたおかげであると感謝しています。
 確かに、大学生時代のように自分にとっての自由な時間を持つことは幾分制限されたように思いますが、そのかわり、その間に得た知識や経験そして仲間は計り知れないものがあります。お受験世代の私にとって、大学院は本当の意味での学問の場となり、自分の能力、人間性を十分に磨くことができ、その楽しさを満喫できたと思います。自分にとって生涯忘れられない思い出になると思います。
 これから広島大学の大学院に進学しようと思っているみなさんは、その志を高く持ち、良識的知識人として自己を磨き、誇りを持って修了できるよう頑張って下さい。
 私を支えてくれた周りのみなさん本当にありがとう。広島大学で学べて本当に良かったです。
実験室で(筆者手前)
 

 
広大フォーラム29期7号 目次に戻る