文学部


新入生の皆さんへ

文学部長 向山 宏


 いつの時代でも若者の純粋さには手を焼いたらしい。エウリピデスの悲劇『ピッポリトス』でも、主人公は潔癖で利かぬ気の青年で、色恋沙汰を支配するアプロディテ女神などには目もくれず、純潔の処女神アルテミスに従って山野を駆けまわっていた。
 ピッポリトスは老父の後妻パイドラに恋慕されるが、手厳しく拒否する。告げ口されるのを恐れたパイドラは、逆に自分の方が言い寄られたと夫に訴える。老王は子を呼び、三度問いかけるが、息子は反論しない。テーセウス王は激怒して国外退去を命じ、ピッポリトスは国境の海岸で岬に馬車を激突させて死ぬ。色恋を支配するアプロディテ女神を軽んじて復習を受けたのである。その遺骸を抱きかかえて老英雄のテーセウス王は女神の声を聞き、息子の純粋さとおのれの愚かさを嘆く。
 いつでもどこでも繰り返される親子の悲劇パターンである。若者は少し進みすぎ極端であるがゆえに悲劇的であり、親はその老婆心から常に時代に遅れがちであり、若者の悲劇を助長する。
 最近は若者の純粋さにへきえきすることが少なくなってきた。老いて感受性が乏しくなったのか。若者の心に踏み込むことが少なくなってきたのか。あるいは若者に激しさがなくなってきたのか。

 
新入生へのささやかなエール

文学研究科博士課程後期 遠藤 耕二


 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。
 おそらく、皆さんの中には大学という全く新しい世界に戸惑いを感じている人もいるのではないかと思います。
 義務教育のような上から押しつけられた授業システムとは違い、大学では皆さん一人ひとりの意思と選択だけが自分自身の将来を決定します。学ぶ意思のある人はそれなりの効果を得られますが、そうでない人は、それに見合ったリスクを負わなければならないのです。大学生活は不安に満ちたものではありませんが、決してバラ色のものでもありません。新しい選択肢や可能性の発見と同時に、数え切れないほどの挫折と失敗も十分起こりうるのです。
 しかし、大切なことは、そうした失敗や挫折も自分の人生の一部と認め、多様な人たちとのコミュニケーションとそれに伴う個人としての責任を知っていくことだと思います。
 その意味で、大学生活は、人としてのマナーや礼儀を知る上で非常に価値のある時期だとも言えます。苦しいことも多いと思いますが、新入生の皆さんには苦難に負けずに、ぜひとも有意義な生活を送ってもらいたいものです。
(えんどう・こうじ)


 



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