自著を語る

『薄肉はり構造解析』
筆者/藤谷義信
 (A5判,230ページ)4,500円
 1990年/培風館

文・ 藤谷 義信


はり(梁)

 はりは構造物を構成する一つの部材である。はりは建築、土木、機械の工学分野において、まず最初に教えておかねばならない構造力学の基礎概念である。
 はりとは棒のことである。はりの力学を学ぶということは、一本の棒が曲げられたり、引っ張られたり、ねじられたりするときの力と変形の関係を学ぶことである。はりの構造力学を学ぶ過程において、実際の棒の変形挙動を想像したり実感するとともに、この細長い部材の変形の特徴を洞察し、変形仮定を導入して以後の理論展開を進めていくことも重要な学習事項となる。
 一本のはりの力学をマスターすれば、このはりをいくつか組み合わせることにより、平面骨組や立体骨組の解析が有限要素法という解析法に従って容易に行うことができる。


薄肉はりの重要性

 構造物のコストの低減のために、構成する部材をできるだけ軽くする必要がある。実際には薄肉の断面をもつはり、すなわち、H形はり、箱形(ボックス)はり、溝形(チャンネル)はり、山形(アングル)はりなどが用いられることになるので、このような薄肉断面をもつはりの力学が重要となる。


はりのねじり解析

 本書の特徴は、はりの曲げに関する力学のみならず、はりのねじりの力学についてわかりやすく解説している。また、実際の任意の断面形をもつはりに対して、ねじり解析に必要な諸量を求めるための使い易い形の計算方法を提供している。
 はりのねじり解析の基本は、ねじりによって生ずる断面の材軸方向の凹凸量を知ることである。この量を「断面のそり(またはゆがみ)」と呼んでいる。
 任意の薄肉はりのそりを計算する方法は、とくに航空工学の材料力学の分野で行われていた。これまでに行われていた計算法を理解することは結構難解である。
 また、この分野ではロシアのウラソフが扇形面積法という計算法を、一九四〇年ごろに提案している。この計算法はさらに難解で、ねじり解析の勉強をこのあたりでやめてしまう技術者が多かった。
 私の提案する方法は、任意の形の薄肉断面を、線分要素に分割し、有限要素法に基づいて線分の接合点(節点)のそりを未知量とする連立方程式を解く方法である。このそりの量がわかれば、断面のせん断中心や断面のねじり定数がすべて求まり、はりや骨組構造物のねじり解析を容易に行うことができるすばらしい方法(自分ではそう思っている)である。


はりのせん断変形解析法

 従来のはりの解析法では、せん断変形が無視されているので、とくに薄肉断面をもち比較的短いはりでは、実際の挙動を十分に表すことができない。本書ではせん断変形を考慮した実用的なはり解析法を提案している。


薄肉はり理論による構造物の解析

 これまで、はりの理論は一本の細長い構造物の変形や応力の略解を得るために用いられたにすぎない。しかしながら、いくつかの解析例を通して、せん断変形を考慮し、薄肉はり理論の解は実際の挙動をよく表していることが明らかになってきた。
 本書では、超高層建築立体骨組構造物と鉄道車両を例にとり、構造物を一本の薄肉はりに置換して、その全体の変形挙動や固有振動数を薄肉はり理論で解析し、少ない自由度で良好な解が得られることを示している。


本書による他大学等での講義

 本書を用いて、現在、私は本学工学研究科構造工学専攻で構造力学特論の講義を行っている。また、本書の内容で、八三(昭和五十八)年に国連招請により韓国大田市の機械金属研究所で四週間の講義を行った。また、九二(平成四)年に中国武漢水運工程学院(現武漢交通大学)において、さらに九三(平成五)年に琉球大学建設工学科においても集中講義を行う機会を得た。


おわりに

 本書が理工学のいろいろな分野で読まれて、各種の構造解析問題に利用していただければ幸いである。薄肉はりの研究は私のライフワークでもあり、本書の内容を整理して、また最近の研究も追加して新しくまとめたいと思っている。



プロフィール

(ふじたに・よしのぶ)
◇一九四二年 山口県生まれ
◇一九六三年 広島大学工学部建築学科卒業
◇一九六五年 広島大学大学院工学研究科修士課程建築学専攻修了
◇一九七六年〜一九七八年 東京大学生産技術研究所講師
◇一九七八年 工学博士(東京大学)
◇一九八九年より広島大学工学部教授
◇所属 工学部第四類建設構造工学
◇専攻 建築構造力学



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