経済学部


経済の時代

経済学部長 前川 功一

  東西冷戦時代には、人々が恐れたような形での第三次世界大戦は起こらなかったが、深く静かに潜行する経済戦争という形でアメリカが旧ソ連に勝利を収めた、と私は見ている。
 軍拡競争という過酷な経済的負担によって、アメリカと旧ソ連の経済社会体制の持久力が試され、旧ソ連の経済体制が持ちこたえられなくなり崩壊し敗れ去った、という見方は単純すぎるだろうか。
 現代では局地戦を除けば、武器を用いる世界規模の戦争は起こりにくい構造になっているように思う。現代の国家間の争いは、武器を取る前に勝負がつくか、武器を取る意味がない形で進行すると言ってよい。このような国家間の抗争を戦争と呼ぶのはふさわしくないかも知れないが、頭脳的な経済戦争という側面が強くなってきたことは否めない。
 小国は大国の経済戦略に翻弄される。また巨大な資金を持つ個人投機家の先端的な金融技術を駆使した投機によって、小国は容易に経済危機にさらされる可能性がある(先端技術はなにも理工系の専売特許だけではない。金融に関するハイテク競争では、アメリカが圧倒的に優勢である。昨年のノーベル経済学賞は、株式投資の先端技術を開発したアメリカの学者に与えられた)。日本が高度経済成長期に貯えた富も、経済政策を誤れば、短期間に失ってしまうかもしれない。
 このような時代にあっては、国家の経済戦略の善し悪しが国の存亡にかかわるほどの影響力をもつ。一国が、国民の生活を危うくするような経済的な失政を免れるためには、為政者や経済官僚だけでなく、選挙権をもつ一般国民の経済学に対する深い理解が重要になってくる。
 現在日本で起こっているいろいろな経済問題の中には、経済原則に反することを長年続けてきた当然の結果、といえるものが少なくない。経済学は個人的な金儲けのためには役に立たないかも知れないが、国の経済基盤の確立と国家間の紛争の平和的解決にとって不可欠な学問分野である。今日ほど、経済学の基礎をじっくり勉強した人材が必要とされる時代はない。


 



新たなスタートライン

経済学部学生 周 密

 新入生の皆さん、入学おめでとうございます。大学の入学は、高校での勉強の成果という意味で一つのゴールになりますが、また、新たなスタートラインでもあります。
 大学と高校は、大きく見て二つの点で違います。一つは自主性です。一学期に何単位を取得するか、一週間のうち何回大学にくるか、一日の中でいつ休みを取るか、どんな講義を聴講するか、各種の行事に参加するかどうか等はすべて各自の判断に任されています。 もう一つは、教育の重点は知識から方法論へと移り変わります。ある問題に対して、一つの回答しかない場合は少なく、いくつかの学説があり、それぞれのアプローチの過程も重要です。大学生活の始まりにつれて、そんな違いに適応していかなければなりません。
 広島大学は、東広島キャンパスだけで西日本最大の図書館を含む三つの図書館を持ち、学生一人ひとりが自由に使えるインターネット環境が整えてあり、その他にも語学勉強のためのマルチ外国語自習室があり、勉強するには最適な環境だと思いますが、それらの利用法をいち早く身につける必要があります。
 もちろん勉強だけが大学生活ではありません。大学の四年間は、おそらく人生の中で、自己充実のために一番自由に使える時間になると思います。前向きな気持ちで、いろいろなことにチャレンジし、大いに悩み、大いに楽しんでください。オープンなマインドを持って、たくさんの友だちも作ってください。どんな形でもいいから、とにかく一つだけでも何かに打ち込んで、「大学時代にこれだけはやった」と後から言えるようになってほしいのです。
 経済学部に進んだ皆さんは、将来の道について、ある程度考えていると思いますが、これから有意義な大学生活をめざしていくうちに、もう少し具体的なビジョンが見えてくるはずです。大学時代は自己発見、自己設計の時代とも言えます。この穏やか な町で、いかに充実した四年間が送れるかは皆さん次第です。
(しゅう・みつ)

98年元旦に友だちと弥山に登った時(筆者左から2人目)
 

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