学生インタビュー

  「就職講義」について西川教授に聞く  



 「冬の時代」とか「超氷河期」とまでいわれて久しい就職戦線。昨年度から就職協定が廃止されたが、依然として厳しい状況である。
 「出口としての就職」に前向きに対応するための一つの方法として、国立大学として初めて「就職講義」が開講された。
 講義担当の西川節行教授に学生が疑問をぶつけてみた。

授業をされてみてどのような感想をお持ちですか。熱心な学生が多かったように思えたのですが…。
 
 就職に対して前向きな姿勢の人が来ている。中には単位にならないのに聴きに来ている学生もいるほどで、他のクラスに比べると雰囲気が違うように思う。



国立大学も独自性を出して

この授業の目的は何でしょうか。
 
 目的は三つある。まずは就職に向かう学生に、十分に社会のことを知り後悔のない選択をして欲しいということが一つ。
 しかし、西条の立地条件を考えれば、企業社会との距離がネックになるだろう。そこでこの講義では、三十代後半から四十代の中堅企業人を呼んでレクチャーしてもらうことにしている。現場の人間を間近に見ることで、企業社会との距離を意図的に詰めていこうというのがこの授業の二つ目の目的だ。
 三つ目の目的としては、広島大学の個性を打ち出すということがある。昨年から就職協定が廃止されたが、これは規制緩和・自由化の流れであり、その中で大学はそれぞれに自己責任を問われることになる。今までは私立大学や企業だけが就職に向けて努力をしていたが、これからは国立大学も工夫を重ねて独自性を出していかなければ、生き残れない時代だ。

「大学は学問の府」とみる人々からの反発は強いと思いますが。

   私立大学で昔から行ってきた努力を、どうして国立大学のみが怠ってこれたのか。そういった不思議な規範がまかり通ってきたことが、いかにも日本的。それを打ち破った大学当局には拍手を送りたいと思う。
 新しい試みなので、もちろん反発はあるだろうし、成功するかどうかもわからない。しかし、ここからは学生に対する深い心配りが感じられるし、そのような人間愛を欠いて何が研究だと言いたい。人間愛のない科学が何を生んだかは、ヒロシマが一番よく知っているはずだ。この大学にこそふさわしい試みと自負している。

先生のご経験を講義に生かせることはありますか。
 
 私が学生の頃は今よりもひどい就職難で、入学と同時に今で言う国家公務員沁試験を目指し勉強を始めた。そして合格したのだが、待遇がずっと良かった民間の銀行に入行した。そのことは今でも後悔している。その経験から、学生には大学を卒業する際、よく社会を研究した上で就職して欲しいと思っている。
 講義に当たっては、金融を中心とした日本経済、経済の国際化、財界、ベンチャービジネス、外資系企業については、自分の経験から話すことができる。一方、行政やマスコミ、製造業については経験がないので、その分野に詳しい外部の方を招きたいと思う。



理論よりも実践と結果

先生のモットーをお聞かせ下さい。

   民間の競争社会では、常に革新を続けていかなければ生き残れない。その中で育ったために常にパイオニアでありたいという意識がある。とにかく人の真似は嫌いだ。また、現場の経験が長いこともあって、理論よりも実践と結果を重視している。



変わる採用形態
最近の就職事情について、どのようにお考えですか。
 
 昨年の就職協定の廃止により、企業側は人材確保のためにいろいろと努力している。いまだに面接重視・人物本位の採用は続いているが、将来的に採用基準は性格重視から能力重視に変わってくるだろう。語学力は即戦力として求められる。中途採用も多くなるだろう。

広島大学の学生は企業からどのような評価を受けているのでしょうか。

   学力が高く協調性もあるので、営業よりも管理職に向いているとの評価が高い。いずれにせよ、能力(専門性)があればよいという点で理工系は有利だが、安心はできない。今のうちはまだ広大のネームバリューで学生を採用してくれるだろうが、放っておくと大都市圏の教育熱心な私立大学に先を越される。
 これからの課題としては、大学院の充実による専門性の強化、資格取得に対する支援体制の充実、マスコミを目指す学生への対応(マスコミ学科の創設など)等が挙げられる。



資格を取得しエキスパートに

広大の学生に何を期待しますか。
 
 広大生は目標設定が遅い。とにかく早く目標を決めて、それに向かって努力をして欲しい。特に一、二年次が大切だ。また、目標を定めるにしても小さくまとまるな。日本でも有数の大学の学生として、国家社会の役に立つ、日本をリードするような仕事を目指してもらいたい。
 さらに付け加えるならば、在学中にぜひ何かの資格を取得して欲しい。社会は専門家の時代を迎えている。何かのエキスパートでなければ、これからは通用しないだろう。

最後に何か一言お願いします。

   官民癒着や不良債権問題など、戦後日本経済の矛盾が噴出しているが、これらは戦後の社会教育システムによるところが大きい。
 日本では大学を卒業したら、そのまま一つの官庁や企業に勤め続けるため、外の社会を知る機会が少ない。それに対し欧米では、民間企業間、あるいは官と民との間での人材流動が激しい。いろいろな企業や官庁で働くうちに豊かな社会常識が備わるのである。
 将来的に日本の労働市場が流動化するまで、社会常識を研究・分析し学生に提供するというこうした講義が必要になると考えている。

本日はどうもありがとうございました
 
日:平成十年四月二十七、二十八日
場所:西川研究室
インタビュア:
石橋淳也(総合科学部生体行動コース三年)
近澤庸平(総合科学部生体行動コース一年)
松永孝治(総合科学部自然環境コース三年)
宮原千晶(総合科学部地域文化コース三年)


就職講義「グローバル時代の日本経済─職業選択の視点から─」の様子
 

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