パイオニアとしての「センター」発足!  

…国立大学では画期的…

文・西川 節行(Nishikawa, Sadayuki)
学生就職センター長







学生の皆さん、企業の皆さん 気軽にどうぞ
 本学に学生就職センターが開設された。就職ガイダンスの開催や就職情報、資料を取りそろえ利用しやすくするだけなく、学内の経験豊かな先生方や、実業界から実際に人事や労務を経験された方々をお迎えして、就職や企業選択などの相談に応じている。
 一般に大学卒業時、就職で人生の方向が決まってしまう。この時期何よりも大切なことは優れた相談相手を持つこと。学生の皆さんにどんどん利用してもらいたい。
 企業の皆さん、これまではせっかく採用で来学いただいても、どこへいったらよいのか、誰が担当しているのか、分かり難くてご不便をおかけしていました。これからはこの「学生就職センター」が学生の就職に関する業務を一切まとめて取り扱います。専任の教官、事務官が常駐しております。
 新幹線東広島駅からタクシーで十五分くらいの大変便利なところです。どうぞお気軽にお立ち寄りください。


大学のパイオニアスピリットに敬意
 今回の本学における学生就職センターの開設は、大学関係者、企業の採用関係者のみならず、広く社会的な話題になっているが、これは「国立大学」が「就職センター」を開設したことへの反響であって、「就職センター」自体は多くの私立大学が最も力を入れているものの一つであり、立派な設備と多数の専属職員を擁し、東京、大阪などの都心にも分室を構える大学も多く、特段に話題性のあるものではない。
 戦前の大学については知識を持ち合わせていないが、少なくとも戦後五十年余り、わが国においては同じように学生を受け入れながら「就職センター」は私立大学にあって、国立には皆無というふしぎな現象が続いてきた。
 おそらく「国立大学は研究の場である」という抜き難い規範が、国立大学の規模、地域性、学生の利益等の個々の事情を超えて支配してきたものと考える。それにしてもなお、この規範が厳然と存在するのは、それなりの理由があり、おそらく今回の決断にいたるまでには相当な論議があったものと推察する。いずれにせよ、国立大学五十年余の殻を破るこの画期的な決断に、心から敬意を表したい。
 さらに企業競争に遅れを取らないために、日々革新する激しい民間経済界に永年身を置いてきた筆者ですら驚いたことがある。筆者が担当する総合科目「グローバル時代の日本経済」は「職業選択の視点から」と副題され、はっきりと「就職講義」となっており、国公立大が単位のある就職講義を開講するのは初めてとして、毎日新聞は「その名もズバリ就職講義」の見出しで全国版で紹介した。おそらく私立大学でも例がないのではないかと思う。
 就職講義の是非について、今後も各方面から厳しい批判が予想されるが、それでもなお就職講義の実施に踏み切ったところに、大学の学生に対する期待と心配りの深さが読みとれる。


就職協定の廃止と大学の新たな試み
 昨年、それまで二十四年間続いていた大学と企業間の就職協定が廃止された。その理由として企業側の採用形態の多様化などが挙げられているが、本質は規制緩和、自由化の潮流にあると考える。そもそも各々事情の異なる大学や企業が、東京から地方まで画一的な申し合わせでよくやってきたものだ。したがって、就職 協定は現実には全く有名無実化していた。
 この協定廃止によって企業側は採用形態の多様化、高度化を一層加速させている。採用時期の早期化から通年化、オープン化、部門別採用、エントリーシート、インターンシップ、そしてインターネットの活用等である。
 協定の廃止で大学側も当然これまでになかった自主努力が求められることになる。大学にはこれまで以上のアイデンティティの確立や個性化が必要となる。旧態然として工夫のない大学は、確実に見放されていく時代になっている。
 今回のセンターの開設、就職講義の開講等の試みは、わが国の大学の新しい時代への対応の先駆けとなると信じている。


より良い進路へ支援を目指すセンター
 今回の学生就職センターは、本学の就職状況が悪いためその対策として開設するものではない。本学の就職状況は、幸い企業から非常に高い評価を受けているため、首都圏等に立地する一部の大学には及ばないかもしれないが、それ以外ではトップランクにあり、大変恵まれていると言える。少なくとも、企業への就職を目指しそれなりの努力を重ねてきた学生は、ほぼ確実に、志望が実現可能な環境にある。
 本センターの目的は、学生の最後の一人までより能力を発揮でき、より満足のできる進路を得ることを支援することにある。参考までに平成九年三月の学部、大学院の主要就職先を掲載しておく。


平成8年度就職状況(学部・大学院)
−平成9年3月卒業・修了者(修士課程・博士課程前期)−

◎就職希望者2,580人(721人)( )内は大学院で内数

○主な就職先企業(5名以上採用)
順位

企業名

人数
1 NTT

42

2 イズミ

12

3 中央出版

10

広島総合銀行

10

松下電器産業

10

4 シャープ

9

三菱重工業

9

5 中国電力

8

三菱電機

8

日本電気

8

6 ジャスコ

6

日立製作所

6

マツダ

6

7 穴吹工務店

5

池田糖化工業

5

佐竹製作所

5

大和ハウス工業

5

日本通運

5

広島銀行

5

三洋電機

5

本田技研工業

5

富士ゼロックス

5

富士通

5

以上23社



○公務員

平成8年度

国家公務員

63

地方公務員

178

合計

241



○教員

平成8年度

小学校

111

中学校

85

高等学校

188

大学(短大含)

8

盲・聾・養

16

その他(塾の講師他)

31

合 計

439

 

企業社会と学生の相互コミュニケーションの場
 大学は社会的存在である。社会に密着し過ぎることは良くないが、距離があり過ぎても良くない。があり過ぎても良くない。東広島キャンパスは巷間の雑音に妨げられることなく勉学に勤しめる学問の場として理想的な環境にあるが、強いて弱点を挙げれば、企業社会との距離である。
 本センターではできるだけ多くの企業人に、何らかの形で来訪を願い、その時々の実社会の動きをありのまま学生諸君に伝えてもらいたいと考えている。
 企業社会が望むもの、学生が望むもの、相互のコミュニケーションを活発化してミスマッチをなくしていくことが本センターの使命の一つと考えている。
 企業の皆さん、どうか地元広島をはじめ東京、大阪、名古屋、福岡などのビジネス街の雰囲気をそのまま持ち込んでいただいて、学生諸君に企業社会の目指す理想をしっかりとお伝えいただきたい。


資格への挑戦とマスコミ
 わが国経済社会は、これまでの日本的秩序の社会から、ビッグバン等に象徴されるように、実力主義、能力主義、専門性が重視されるグローバル・スタンダードの社会へ急速に移行しつつある。今年の採用側のキーワードの一つに「自立」があるが、本センターにおいても学生諸君の資格や技能への積極的な挑戦を啓蒙し、支援していきたい。
 その代表的なものが公務員試験である。別表のとおり本学は高い実績を上げているが、より高度な職種を目指すためには、早期の目標設定や組織的な受験技術の蓄積が必要であり、これらの面で支援できる方策を考えていきたい。
 次に、このグローバル化の時代には、高度な語学能力が例外なく求められている。検定試験等への対応が必要となる。
 司法試験は簡単にはいかないが、公認会計士試験、税理士試験、簿記検定等は合否に拘わらず勉強自体が採用側に評価される。その他情報処理や宅建等も就職には有利であり、旅行業界を目指す者には旅行業務取扱主任者資格が必須である。
 なお、資格ではないが本学からもっと大手新聞社、出版社、テレビ局等への進出があっても良いのではないかと考える。そのためにはマスコミ分野の開拓と特別な準備が必要だと思う。対策を考え実践していきたい。


留学生の就職情報の充実
 現在来日する留学生のうち五人に一人は日本で就職している。大学教育に加えて実際に企業で実務を経験してはじめて、自国に役立つ知識や技術が身に付くものと考える。
 留学生の就職もあくまで自己努力によることが原則であるが、企業との交流の機会、留学生の採用情報等を組織的に提供できる態勢を整備していきたい。


各学部との緊密な連携
 本センターは各学部との緊密な連携を基本としている。各学部から、運営委員と実際の相談等の業務にあたるセンター員として、先生方においでいただいている。
 就職形態は文系と理系あるいは教育系などで大きく異なり、学部間でも就職への関心度、関与度に大きな差がある。本センターでは各学部の事情を十分に勘案しながら、大学全体として最も学生の利益になるように、バランスのとれた態勢の整備、確立に努力していきたいと考えている。


先輩方へお願い
 学生の就職には先輩諸氏の協力が不可欠である。幸い長い歴史と伝統を誇る本学には、各界、各階層で広く活躍しておられる多数の有力かつ強力な先輩方がおられる。
 まず先輩方にお願いするのは、近くに来られた折り、帰郷された折りなどぜひともお立ち寄りいただきたい。かつて東千田で過ごされた方は、この緑に囲まれた広大な東広島キャンパスでの学生の勉学ぶりを見てやっていただきたい。
 国立大学であることから、学生の就職活動支援には限界があります。将来的には同窓会組織などで、例えば東京とか大阪での学生の就職活動支援のご協力をお願いすることもあるかもしれませんが、その折りにはなにとぞよろしくお願いします。


 

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