学長インタビューNo.26

 広大を日本の身近な大学に 

日時:平成10年5月26日(木)午後3時
場所:学長室


  学外には広島大学はどのような大学と映っているのか、学外の人は広島大学に何を期待しているのか。フォーラム二号では、「二十一世紀に向けて広大は─学外からの発信」と題する特集を組んでみました。
 一方、広島大学のうたい文句は何なのか。どのような大学を目指すのか。今回の学長インタビューでは、内田副委員長と渡邊委員が学長を訪ね、この点を中心にして学長のお話を伺いました。



バランスのよい人間を

広報委員=大学が冬の時代を迎え、生き残りを図るなかで、学長はどのような点をアピールし、あるいはどのような大学を目指して広島大学を発展させようとお考えですか。

学長=大学の使命のまず第一は、良い学生を育てることである。教育改革を進める中で、広島大学は教養的教育を重視する方針を立てた。教養的教育では運用能力に重点を置いた英語教育や情報教育を行い、国際化、情報化に対応できる実践力を持った人材を社会に送り出すことを目指している。
 そのために西図書館を“学習図書館”にして、外国語とコンピュータの自習室を作った。多くの学生がコンピュータを使え、語学は一人で勉強できる環境を作ってやれば、そこで始めた皆ができるようになる。私も英会話を独学で長年続けているが、少しは英語を喋れるようになった。
 また、大学院では研究の深化だけを問うのではなく、ベンチャービジネスのできる学生を育てたい。これは理科系だけに言えることではなく、文科系でも同様である。
 大学は単なる技術者の集団を作る必要はなく、教養的教育を基礎にして、社会の役に立つバランスの良い人間を作り出さなくてはならない。他人のために生きる事ができる人、他人を大切にする人を育てていくうちに、天下国家を論じるような人、日本を背負うような人が生まれてくるであろう。
 第二は、より社会に開かれた大学、社会に役立つ大学を目指したい。「大学は何をするところですか」「大学は学生を教育するだけですか」、と世間は大学が役に立っているかどうか疑心暗鬼であり、大学に対して大変冷たい。大学教員の任期制、大学の民営化の話も、このような社会の見方と関係がある。
 大学の教官は、文化・芸術・教育・科学技術などあらゆることについて社会に還元できるような能力を持った人たちの集団である。例えば政治や経済でも、環境問題でも、シンクタンクとしての機能を発揮し、市民や県民が、広島にあって良かったと思い、誇りにできる広島大学にすることが大切である。
 公開講座も大いにやってほしいが、桜を植えると十年後に人々が大学に来てくれる。学問だけでなく、アメニティ等でも誇りに思える大学を作りたい。


教官の意識改革を

広報委員=大学の発展のために、広島大学の教官に何を望みますか。

学長=何といっても意識改革が重要である。学問的に立派な先生方は大学に多いが、その先生方は部屋の中に閉じこもっているから、ベールに包まれて外の人には見えない。それどころか社会との接点に乏しいため、常識を欠く教官もいる。大学の教官は必ずしも尊敬されていないことを自覚してほしい。
 前回のインタビューでも強調したが、井の中の蛙では困る。広島大学の先生が社会に打って出て、社会から評価をしてもらうことで、広島大学が社会に身近になる。文科系の先生も本と講義だけではなく、自分の知識をインターネットで広めるといったような工夫をして、サービス精神を発揮してほしい。
 私は教官の意識の改革のために学内を回り意見を聴いている。大学の先生方の意識を変え、開かれた大学として、広島大学を中国地方ばかりでなく日本中にまた世界に発信する大学にする。こうすれば次の世紀に生き残ることができる、社会から最も近い大学となる。
 教育についても、学生一人ひとりが光るような教育環境を作り、次の時代の日本を背負う人たちを養成することを心がけてほしい。
 その昔、吉田松陰の一握りの門下生が新しい日本を動かした。全てが優れた人たちとはいえなかったはずなのに彼は逸材を育て、一握りの人間を光らせた。どの人間でも、ある時感激するとか、これをやりたいとか、一つの目標を大学で与えることができれば、それによって次の世紀の日本のために役立つ人が育つ。それが教育であると思う。


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