草原にほころぶ芳しい桜
−内モンゴル庫倫旗第一高校の日本人教師−
林 愛梨さん
海外で活躍する卒業生
本学教育学部を1996年3月に卒業した後,青年海外協力隊の一員として,中国の内モンゴルの高校で日本語教師として教鞭をとっている林愛梨さん(三重県出身)を紹介する記事が,このほど中国の主要紙「人民日報」に掲載された。厳しい生活環境の中で,日本語教育に献身する林さんの生活ぶりの一端が感動的に報道されているので,全訳を紹介することにした。
内モンゴルの庫倫旗第一高校で、若い日本人女性教師が教壇に立っている。彼女の名前は中国名でもある林愛梨。もしかすると、この名前にこそ、中国との縁が含まれていたのかもしれない。
今年二十四歳の林愛梨さんは三重県伊勢市の、普通の家庭に生まれ育った。両親、二人の弟、古稀を越す祖父、祖母の七人家族である。
彼女は一九九六年広島大学教育学部を卒業したばかりの頃、日本国の対外援助友好機関─青年海外協力隊が中国を援助する日本語教師を募集していることを知った。幼い頃から外の世界への好奇心と憧れに溢れていた彼女は、海外協力のような実践を通じて、自分自身を磨こうと決意した。
また、古い歴史を持つ中国がちょうど彼女にとって長い間憧れの国であったことから、ためらうことなく応募し、幸いにも千名以上の応募者の中から選ばれた三十名の中の一人となった。そして、ただ一人、外国語教師の不足している庫倫という貧しい少数民族地域に派遣され、日本語教育という重任を果たし始めた。
庫倫旗第一高校は、モンゴル民族の学校であり、在校生の九九%をモンゴル民族が占めている。そのため、外国語教育はモンゴル民族の素質向上に関わる重要な課題となっている。
林先生の到来は全校の教職員と学生たちから歓迎された。林さんもこのような厚い心尽くしをありがたく思っているようだ。彼女の要望と地元で日本語教師が早急に必要であるという現実から、学校側はとくに中学生の日本語クラスと日本語教師養成コースを開設した。
彼女は普通の先生の二倍に相当する週に二十一時間の授業を担当している。二種類の教室で生徒を教えたあと、引き続き教師たちも教えており、仕事の負担はきわめて重いことがうかがえる。
授業が非常に忙しいことから、彼女は自分の余暇もつぶしてほとんど仕事に傾けている。そのため、彼女が足早に歩く姿や、きわめて粗末な弁当を食べる姿、寝室に深夜まで灯っている電灯を人々はよく見かける。
それだけにとどまらず、生徒たちの経済負担を軽減するために、彼女は自費で学習資料を作成している。また、学校の経費を節約するために、日本の家に電話する時はいつも両親に掛け直させている。生徒の心には、もはや国の境はなく、先生を敬う気持ちだけがあるのである。
林先生が学校に全力を注ぎ、教育に打ち込んでいることは学校側の責任者の目にもとまり、彼女のために料理を作ったり、日常生活の面倒を見てくれるお手伝いを雇おうとしたが、彼女は婉曲にこのような申し出を断った。そこで、学校側は他の方法で熱心に世話をしている。休日には、先生たちが時々自分の家で美味しい家庭料理を作って、林さんを招待したり、誕生日には、彼女のために交歓会を開催したりしている。
このような心尽くしのもてなしは、遠く寒い異国の地に住んでいる林さんにとって、家族のような温かさと中日両国国民の友好的な感情を抱かせるものであった。
一九九七年の夏休みに林さんの両親が弟一人を連れて、彼女を訪ねた際には、学校側は盛大な歓迎会を行った。両親は娘がこのように大事にされている様子を見て、とても喜び、学校と生徒たちの期待に背かぬよう、仕事を無事にやり遂げるように娘を励ました。
あと半年で林先生の中国における教育援助の仕事は終わる。彼女は知識の伝授のみならず、友情の花の種をもまいた。この桜の花のような芳しさは庫倫草原の大地に、そして人々の記憶に末永く残っていくことだろう。
(訳:孫軍 大学院国際協力研究科博士課程前期)
1998年1月30日付,人民日報(海外版)
広大フォーラム30期2号
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