留学生の眼(64)

  花 見  

文 写真・ アクバル モハメド アリ(Akbar Mohammad Ali)
広島大学生物生産学部外国人研究生

 

 私が日本への留学を選んだのは、母国バングラデシュでの生活環境からです。バングラデシュの家庭には日本製の電化製品がたくさんあります。外に出ると日本の車が走っています。そんなことから私は日本に興味をもち、ぜひ日本へ留学したいと思いました。また、それに加えて学位をきちんと取りたいとも思いました。
 日本での五年間の留学生活を、今振り返ってみると、自分の専門分野である農業経済学に関する知識を学んだことは大変重要です。しかし、農業経済学だけならイギリスでも、アメリカでもどこででも学べたと思います。日本という国で学べたことに意義があるのです。このことは、日本で勉強した農業経済学よりも、私のこれからの人生において大きな意味を持つと思います。その話を以下に述べたいと思います。

 私は、日本式の丁寧さと手際の良さで歓迎を受けました。そして同時に、日本独特のことにも気が付きました。他の国々が個人主義を追い求めるのに対して、日本人は団結と集団性が強く、同質を求めます。すべてが一定の規則の下になされます。みんながその規則に従います。それは、私に対して鏡のようです。
 日本民族の、団結と集団性の強さは、桜の花にも通じると思います。五年間の間にたくさんの日本人と知り合いになり、非常に楽しかったですが、特に楽しかったのは、満開の桜の「花見」です。
 四月には、南から北まで桜の花が咲きます。桜の木の下で、音楽を流し踊ったり歌ったりする日本人がたくさんいることに驚きました。なぜ桜の花が、たくさんの日本人の心を打つのでしょうか。
 もちろん、昔から桜が日本を代表する花であるから、と考えられますが、桜の花は一緒に咲き、一緒に散ります。それは、日本民族の団結と集団性を表わすのではないでしょうか。その精神こそが、日本をここまでの経済大国にさせた源泉ではないかと私は考えています。また、その団結と集団性は、日本民族のもっとも優れてるところではないでしょうか。

満開の桜の下で。ゆかいな友人たちとの花見
 しかし、この精神には弱い面もあると思います。それは個人の独創力を発揮する余地が、少ししかないことです。日本では、努力すれば誰でもできるということがありますから、全体的な学校教育は世界でも一流になってきました。これは事実です。その反面、日本で個性というもの、独創力というものはあまり認められていないのではないかと思います。
 また日本の学校でのいじめ、それと子供の自殺率が年々増加しつつあることも、大きな社会問題になっています。自殺を選ぶ子供たちは、この社会の中でのチームワーク、みんな一緒でなければならないこと、めだってはいけないということにうまく合わせていけない子供なのではないでしょうか。
 このように、一見協調性があり効率に優れているように見える日本独特の団結と集団性の中には、大きな弱い面も隠されているのではないかと思います。
 これまでの日本は集団と団結によって発展してきました。しかしこれからは、個人の独創力、個性を生かしながら、世界へ飛躍していくことがこれからの日本の新たなテーマとなるのではないでしょうか。
プロフィール        

◇一九六六年十月一日 バングラデシュに生まれる
◇一九九一年三月一日 バングラデシュ農業大学農学部卒業
◇一九九三年四月一日 広島大学大学院生物圏科学研究科入学
◇一九九八年三月二十五日 同右修了
              



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