地域に開かれた大学を 

中国新聞社専務取締役 山本 一隆

 「二十一世紀に向けて広大は」について意見を述べてほしいという依頼を受けた。もとより私は広島大学の出身者でもないし、我が社が日ごろ何かとお世話になっている大学に対して注文をつけるなど大変おこがましい事である。
 ただ我々の地元広島にとって重要な役割を持つ大学のあり方について、第三者の意見として聞き流していただければ幸いである。


二十一世紀の大学のあり方

 まず一般論として大きく変容する国際社会の仕組みの中で、これからの大学のあり方について考えてみたい。
 一般的に考えられる潮流として次の四項目が上げられる。
(1)超高齢化、少子化の時代にどう対応するか
 高齢化社会の到来については社会構造の変化や年金、福祉など多くの問題が山積みしている。しかしもっと深刻な問題はさらに進むであろう少子化の問題である。この問題は今後の大学の教育システムに関わる課題を多く含んでいる。
(2)国際化、グローバルスタンダードの時代にどう対応するか
 アジアからの留学生の受け入れ、海外への留学体験など多くの学生が体験的に国際化の波に乗っている。しかし真に大切な事は学生個人の体験に留まるだけでなく、体験を生かした国際交流に取り組んでいただきたい。
(3)急速に進む情報化への対応
 インターネットをはじめとする世界的な情報網の整備の中で大学の教育がいかに変身して行くべきか、改めて考える必要がある。
(4)自然環境保護と生命の尊重
 本来、人間の命の尊さや自然環境を守る心の育成は大学教育からややかけ離れている。しかし、将来社会人として地域や国に貢献すべき学生たちにとって、すべての物への思いやりの心を大切にしていただきたい。


広島大学への期待

 こうした二十一世紀への大きな流れの中で、広島大学のあり方についていくつか思いつくことを述べてみたい。
 戦後の広島の復興と共に歩んできた広島大学が、新しい世紀に向かってどんな顔を持とうとしているのか。我々地元の人間としては地域に開かれた大学と同時に特色ある大学像を求めている。つまり今後、より一層地域への貢献を望みたい。具体的には次の三点を要望する。
(1)人材の育成
 将来、広島で活躍する人材の育成が最も望まれる。このためには学生時代から広島の都市作りや地域の活性化に常に関心を持ち、若者らしい提言が行える人材を育てていただきたい。
(2)地元企業との共同研究の推進
 広島の重厚長大型の産業構造から新産業への転換が叫ばれて久しい。これまでも産学共同で研究や開発が行われて来た。これからは企業側からの要請に応えるだけでなく、大学側から積極的にニュービジネスの提案を行い企業、団体に働きかけていただきたい。
(3)地域住民との交流
 これまで通り市民大学や生涯学習の場を広く設けていただきたい。さらに学生たちには地域の健康な高齢者との会合の場を作り、お互いの意見交換など交流の輪を広げてほしい。
 また福祉ボランティアにも積極的に参加し、人命の尊さを実感していただきたい。この地域のイベント、例えば祭りや文化、スポーツ催事に参加し、地域の人たちと共に汗を流すことが大切。将来社会に出てこの体験が必ず役に立つはずである。こうした一人ひとりの小さな行動が広島大学の顔の一つひとつを作っていくものと確信している。


プロフィール
(やまもと・かずたか)
◇一九四三年 広島県生まれ
◇一九六七年 慶応義塾大学卒
◇一九六七年 中国新聞社入社。東京支社、福山支社等を経て一九九二年より常務取締役
◇一九九六年 同 専務取締役
◇一九九八年 同 代表取締役



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