地域との連携強化を 

広島市立大学教授 吉田 典可



 情報社会の幕開けに備え、新しい社会基盤形成の課題として情報通信基盤の整備とその高度化が採り上げられている。大学においても、遅滞なく、先導的にこの課題に取り組み、学理の府、技芸の殿堂、また教育実践の場にふさわしい大学キャンパスとしての情報通信機能の構成並びに整備、運用を最新、最高の水準に維持するべく努力されることが重要であろう。
 地域に根差し、地球規模での諸活動を展開している大学としては、まず、ネットワークサービス接続拠点を広島地域に設置することに努力することが望まれる。現状の例として、この地域内のインターネット利用者同士が、異なるプロバイダを介してメール交信をする場合は、関西や関東に所在のネットワークサービス接続拠点を経由してはじめて経路が構成され、接続されて交信できるという余剰な負担を強いられている。学理と技術において先導的な地位にある大学が、地域を代表して関係方面の指導、働きかけに当たり、早急な実現を図って欲しいものである。
 このような接続拠点の分散配置策は単に地域での経済効果や利便性が増すだけでなく、緊急災害時などでの耐障害性、系統信頼性を確保する上できわめて重要だからである。


学生も大学全体に関心を

 さて、大学キャンパスの統合移転整備により全学が三つのキャンパスに集結できて、大学改革の目玉の一つとして構想されていた教養的教育がようやく平成九年度から実施されるに至った意義は大きい。教養ゼミの実施に当たって、力作のガイドブックを刊行したり、全学を挙げて実施研修会を催すなど、意欲に満ちた教職員の取組みを評価したい。
 これにより、これからの社会で望まれる新しい目標の設定や課題の解決に、より良く対応できる人材が育成されることを期待し、その成行きに注目したい。学生のこれに取り組む姿勢や反応はどんなものであろうか。教官側からの調査集計よりも受講学生自身による主体的な点検・評価を知りたいところである。
 ところで、学生諸君は、自分の大学全体をどのように評価しているのだろうか。「広大フォーラム」での学生による執筆、投稿の記事は個人の立場からのものが多く、修学目標、専門分野、修学年次などでまとまった学生集団としての意見や要望など、大学の諸活動への参加の実態が見えにくい。学生が受動的過ぎて安易な意識や生活態度だというのだろうか。
 多数の学生が活動し生活する学園なのだから、課外活動だけでなく、学生たちがある組織として大学の教育研究活動や運営にもっと積極的に関心を持つことが望まれる。
 良い意味での組織的緊張関係を維持し続けることは重要だと思う。大学側としては、その育成、組織化と維持に配慮すべきことはないかを考える必要があろう。


附属病院分院を東広島市に

 大学教職員や学生の健康維持は大丈夫だろうか。特に、急激に人口が増加しつつある東広島市における救急医療体制は地元住民を含めて万全を期して欲しいところであろう。
 医歯系附属病院を擁する大学として、緊急な医療業務への対応に不安がないよう配慮すべきであろう。たとえば、霞キャンパスと東広島キャンパスとの両キャンパスにヘリポートを設置して、県警や消防局等との協調連携により市民も利用できる救急医療体制を整えるとか、あるいは附属病院分院を東広島市内に設置するとか考えてみてはどうだろうか。
 これまで、統合移転の長い道程のなか、地域における多くのコミュニティやソサイエティの理解と支援によって新しいキャンパスでの教育研究活動が充実し、伸展してきている。これに対比して、東広島市とその周辺地域に対し、大学は何をなすべきか、また、何ができるかを考え、計画的にかつ具体に実践すべきときに差し掛かっていると思う。
 すでに移転当初から高等教育や学術研究の成果を広く市民に公開し、公開講座の実施などとともに好評を得ていることは非常に喜ばしい。さらに言えば、文教施設として表彰を受けた東広島キャンパスはどの程度地元の人々に開放され、利活用されているのだろうか。附属図書館や体育関係施設など開放利用への対応を比較的考えやすいところでも、従事職員の定員削減により、時間外の利用提供には困難が多いと聞く。このような隘路(あいろ)には、地元の支援で設立された財団法人からの事業助成により、要員を確保し、所要の補完整備をして十分に地元の人々に利用してもらってはどうだろうか。
 広島大学の一層の充実と発展を願って止みません。



プロフィール        
(よしだ・のりよし)
◇一九三一年 佐賀県生まれ 
◇一九五六年 九州大学工学部卒業
◇一九五六年 同大工学部勤務
◇一九六九年 広島大学工学部教授
◇一九八七年から九一年まで工学部長
◇一九九五年 広島大学名誉教授
◇一九九五年 広島市立大学情報科学部教授               




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