北大での経験から 

北海道大学 教授  林 忠行

 広島大学も北海道大学も大きな組織なので、私が知っているのはそのごく一部(法学部と他の文系部局)にすぎない。しかも私の「広大イメージ」は四年も前のもので、その後の変化についてはなにも知らないに等しい。「提言」めいたことをいうことにはためらいも感じるが、せっかくの機会なので、的外れを覚悟で思いつくことを書いてみる。


部局横断的な研究プロジェクト

 北大も広大も総合大学なので多分野にわたる人材を擁している。そうした利点はもっと活用されるべきだと思われる。手前味噌になるが、昨年度から私の勤務する北大スラブ研究センターは「サハリン大陸棚開発と環境問題」という研究プロジェクトを手がけている。一昨年度から、北大では部局横断的な具体的研究プロジェクトを公募し、総長裁量経費(学内科研)から助成金を出すという方法が採用されたので、これを利用して昨年度に学内のさまざまな文系・理系学部や研究所の専門家を集めて企画を立ち上げ、今年度からは科研の基盤研究と国際学術研究の助成も受け、かなり大型の研究プロジェクトに発展しつつある。さらにこの企画では北海道内の官民の実務家たちとの交流も視野に入れている。
 それよりは小規模だがアムール川流域地域を総合的・学際的に研究するプロジェクトも同様の方法で進行している。この企画のユニークな点は、学際的な地域研究の入門書を作り、共通教育のための教科書にすることを目的としていることである。また、法学部と経済学部の教官が共同でアジア太平洋地域の安全保障問題をテーマとする研究プロジェクトを進めているが、これにはかなりの数の大学院生を動員し、研究と教育を連動させている。
 私が広大に在籍していた時代にも、部局横断的な研究会は存在していた。しかし、必ずしも部局横断的に特定のテーマに絞って研究プロジェクトを展開する試みはそれほど多くはなかったという印象がある。長期的にはそうしたプロジェクトによる実績の積み上げは、新しい研究所の立ち上げなどにもつながる。ただし、ここで挙げた北大の部局横断的研究プロジェクトはむしろ全体としてみれば例外的なものであり、北大もまたその擁している人的資源を十分に活用できてはいない、という印象を持っている。


科研費獲得で実績づくり

 先日、今年度の科学研究費の配分が発表された。毎年、北大は九州大学、名古屋大学と採択件数や配分額でつばぜり合い、悪くいうと「旧帝大」(これは好きな言葉ではないが)の中での最下位争いを展開している。広大はこのグループの直ぐ下にいるが、配分額では少し差がある。常勤講師以上の教官一人当たりで配分額を比較すると、北大は新規分で広大の一・六倍、継続分との合計では一・九倍ということになる。これは、学部構成や規模の大きな研究所の数の差などが影響していると思われる。しかし、少なくとも(四年前までの)広大の文系という世界に限れば、科研費の取得に関してはかなりのんびりとした雰囲気があった。それに対して、(少なくとも今の)北大文系は大学院重点化構想との関係で、この側面における「実績づくり」にかなり真剣になっている。科研の配分方法などでいろいろな議論があることは承知している。しかし、各大学が持っている企画力がそこに反映されているということも否定できない。これは、教官の意識の持ち方で結構違ってくるようにも思える。科研ばかりが能ではないが、広大ももうひとがんばりして北大に一泡吹かせるというのはいかがだろうか。


頑張れ、広大!!

 どうも、研究センターに勤務していると、プロジェクトとか資金集めといった「興行師」的な意識が強くなりすぎているので、このような内容になってしまった。お許しいただきたい。最後に、頑張れ、広大!! 北大も頑張りますから。





プロフィール        
(はやし・ただゆき)
◇一九五〇年 東京都生まれ
◇一九八二年 一橋大学大学院博士課程後期単位修得退学          
◇一九八二年 同大法学部助手
◇一九八五年 広島大学法学部助教授
◇一九九一年 同教授
◇一九九四年 北海道大学スラブ研究センター教授
            




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